| それを知ったのは単なる偶然で。 寧ろ今まで知らなかった自分がどうかと思ってしまった。 8月27日は宮田一郎の誕生日らしい。 「知らなかった...」 夏休みは帰省しようと思っていた。 お盆前の夏祭りに宮田くんと一緒に行く約束をしていたから、それまでは東京でバイトを続けて、お盆過ぎて帰省ラッシュが収まった頃に帰ろうと思っていた。 勿論実家にも、バイト先の店長にもそれは話している。 でも、それはどうだろう...? 昨年は知らなかったし、何も言われなかった。 寧ろ、去年全く興味を出さずに彼に誕生日を聞かなかった自分はどうかと思う。 でも、知ってしまったから知らなかったふりは出来ない。 というか、したくない。 ところで、付き合い始めて1年経つけど... 彼の趣味や嗜好が分かりません。 食にはあまり興味を示さないのは知っている。 お祭りのときとか、それ以外にも。 本当に興味なさそうに... 寧ろ、私が沢山食べるのを感心するとか観察するとか。そういうのしか浮かばない。 ...ちょっと自重しよう。ちょっとそれはそれで引くかもしれないし。 決心を新たにしたところで... ―――宮田くんの好きなものって何? 「ねえ、最近何だかほしいなーとか思うものない?」 さりげなく。 これ以上ないくらいさりげなく聞いてみた。 ただいま、レジに並んでいるけど、お客はゼロです。 この店、潰れませんように... 宮田くんは私をじっと見た後、「特にこれと言って何も」と言った。 何も、と来ましたか!? まさか、さりげなく聞いたつもりなのにばれたのか!!?? 「さん、顔に出る人だって知ってるよね?」 「な..何が!?」 声が上ずってしまい、 「態度にも出るけど...」 とかなり呆れた表情を向けられた。 何だか心外だ。 そうだ、質問の角度を変えてみよう。 「宮田くんは、将来何になりたいの?」 私の質問が唐突だったらしく、彼の返事は数秒待たないと出てこなかった。 「将来、ね...」 結局答えのないままお客さんが増えたことにより私の『ザ・彼氏への誕生日プレゼントは何が良いのかしらリサーチ』が終了してしまった。 今日のシフトは時間がずれていて宮田くんは先に上がってしまった。 早番のときは、宮田くんはこの後に用事があるみたいでそのまま帰っていくことがしばしばだ。 いや、違うな。 一度お店の正面に回って片手を上げて去っていく。 そういうところは義理堅い。 しかし、問題は全く解決しなかった。 とりあえず、帰郷のための新幹線のチケットの手配はまだしていなかったから大丈夫として。 親には電話1本で済むし。 バイトは..数日だからついでに休んでそのままレポートでも書いていよう。 んー、やはり最も難易度の高い課題が残っている。 彼は、結局何が好きなんだ?? 「そういえば、さんはそろそろ実家に帰るんだろう?」 「え、ああ。まあ...」 正直に答えようかと思ったところでイタズラ心がムクムクと育った。 そうだ。サプライズ。 帰ったと思っていたのに何で!?とか言わせてみたい!! 「そうなんだよね。大学って結構夏休みが長いから」 「それ、去年も言ってたよ」 苦笑しながら宮田くんはそう言った。 言ったっけ?言ったかも。 去年は感動してたし。 そして、宮田くんの誕生日。 プレゼントは結局決まらず、寧ろ「プレゼントは私よ」ってベタなギャグかしら??とか思いながらレポートを仕上げていた。 店長に一応確認しておいた。 宮田くんは今日もバイトが入っているらしい。 誕生日だというのに働き者だと思う。 そろそろ取り合えず街に繰り出してプレゼントを物色してこようかと思ったらインターホンが鳴った。 何だろう、こんな時間に。 押し売りか!? 受けて立つ!と気合を入れてドアを開けると、もの凄く呆れた表情を浮かべた宮田くんが立っていた。 「まずはインターホンで」と指導が入る。 何のことだろう、と首を傾げると 「最近物騒だろう?相手が誰かって事くらいは確認しろよ」 と『まずはインターホンで』の意味を教えてくれた。 ほうほう、なるほど...と思いながらもそういえば、宮田くんは何で私の目の前に居るんだろう? だって、私が帰郷したって思っているはずでしょう?? 「言っただろう。さんは結構顔に出るって。実家に帰るんだろうって確認したときに、目が泳いでたから、嘘だな、って。何が欲しい?って聞いてきてたしな」 うわぁ...浴衣を着た彼女を見つけ出せないくせに、そういう洞察力はあるんだ... 素直にその言葉を口にすると宮田くんは渋い顔になる。 「今度は、ちゃんと見つける」 少しだけムキになってそう言った。 その表情が可笑しくて笑うと、面白くなさそうに宮田くんはそっぽを向く。 「あがる?」 「いや、外がいい。出かけないか?」 そう言った宮田くんに頷いた。元々そのつもりだったのだから。 「で、俺に何くれるの?」 からかうように宮田くんが言う。 確信犯め! 彼は私が手ぶらなのを見てる。 正しくは、バッグを持っているけど、そういうものを用意しているなんて思っていないのだろう。 本当に洞察力は素晴らしい。浴衣着ていない私に対しては。 「んー、そうだな...」 負けっぱなしは悔しいではないか。 面白そうに口角が上がっている唇に自分のそれを軽く押し付けた。 勝った!! 何だか色々と間違った感想かもしれないけど、宮田くんは今まで見たこともないくらいに顔を真っ赤に染めている。 小躍りしたい衝動を抑えてそのまま宮田くんを観察していると彼は徐に右手で口を覆ってそのまましゃがみこむ。 「宮田くん?」 どうした?嫌だったか!? 「さん...それは反則」 「思いのほか、誕生日のお祝いを喜んでもらえたようでよかったわ」 じろりと私を見上げて睨みつけるけど、どこかしらその表情は緩んでいるため怖くない。 とりあえず、喜んでもらえるプレゼントが渡せてよかった。 「明日、実家に帰るから」 「戻ってきたとき、覚えてろよ」 宮田くんの言葉にドキッとしたのは言うまでもなく、その反面、何だか少しだけ怖いなーとも思ってしまった。 |
桜風
08.8.1
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