水溜り





午前中までザァザァと降っていた雨がとりあえず一息ついた感じにやんだ。

帰る頃にはまた雨が降るのだろうと空模様を眺めて予想しながらジムへと向かう。

その途中、見慣れた背中を見つけた。

宮田は駆け出そうとして、足を止めて息を吐く。

彼女は水溜りを見つけては足を入れて遊んでいた。

「ガキみてぇ...」

元々彼女はそういう性格だ。

子供の宮田が『子供みたい』と思うくらい、良い言い方をすれば『素直』とか『純粋』というものになるのだろうが、彼としては少々呆れるくらい『ガキっぽい』というのが彼女への評価だ。

しかし、その評価には悪意は一切なく、どちらかといえば好意の方だが、どうにもそれを素直に表現できないのは宮田の性格だ。

「...さん」

あきれた口調で名前を呼ぶ。

彼女はその声に反応して振り返って、笑った。

つられて笑顔になりそうになるのをこらえる宮田は、ただ今絶賛思春期というやつだ。

「あら、一郎くん」

彼女が足を止めたので少しだけ歩調を速めて宮田は彼女の元へと向かった。


「何してたんですか?」

聞かなくても分かる。ジムへの道を並んで歩きながら宮田はに聞いた。

「水溜りに足を突っ込んでたの」

「...見たら分かりますよ」

ため息混じりに宮田は応える。

そんな少し生意気な宮田に不快な表情をするわけでもなく彼女は笑っている。

「楽しいよ」

「そーですか」

膝から上の彼女を見たらちゃんと年相応の少し大人の仲間入りといった感じの雰囲気を醸し出す服装だ。

だが、膝から下。つまり彼女の履いているものを見るとそれが少し台無しだと思えるようなものだった。

彼女は長靴を履いている。

おしゃれなそれではなく、小学生が履くような黄色い、デザイン性の全くないものだ。

いや、今時の小学生がはいている長靴の方がもっとデザインが凝っていてオシャレだと思う。

「今は雨も降ってないし、何で長靴なんて...」

冬になればそれは『ブーツ』と名を変えてしかもかなりオシャレ度が増すものとなるが、現在は結構ダサい。

彼女の着ている服に全く合っていないと思う。

「え?だって、水溜りに足を突っ込みたかったんだもん」

『だもん』という彼女はかわいらしくて宮田も少し「じゃあ、仕方ないかな」と傾きかけたが、やはりここは忠告をしておいた方が良いような気がしてきた。

「似合ってないですよ?服装とちぐはぐって感じで」

「あら?一郎くんってオシャレさんなのね」

笑いながら彼女が言った。

やはりこれだけ年が離れていると、彼女にとって自分は『子供』なのだろう。

面白くないと思いつつ、

「オシャレとかじゃなくて。普通に一般的な意見ですよ」

少しムッとしながら応える宮田には肩を竦める。

「機能重視よ。第一、雨上がりでこんな道を歩いてたら泥跳ねが酷いじゃない?」

つまり、彼女は似合っていないことを承知の上でその長靴を履いているというのだ。

「...じゃあ、何で態々水溜りに入るんですか」

「せっかくだから。楽しそうだし」

やっぱりそっちの理由の方が大きいのだろう。

「で?楽しかったんですか?」

あきれた様子で宮田が言うと彼女は満面の笑みで「うん!」と応えた。

こういうときのの表情ははいつもよりも少し幼く見える。

だから、いつもよりも近くなったみたいでほんのちょっぴり嬉しいとか思っているのは内緒だ。

「...それは、よかったですね」

絶賛思春期中の宮田は何とか一言そう返してそっぽを向く。

そんな宮田の様子を見ながらは小さく笑った。

今、頭を撫でたらものすごく怒られるんだろうな...

宮田の想いを知ってか知らずか。彼女はそう思いながら心持ちゆっくりとジムへの道を歩いた。









桜風
09.6.1