| ぽかぽか陽気。さらに爽やかな風。 これは、絶好の条件が揃っているではないか。 くあ、と欠伸をしながら歩いていると「おい」と声を掛けれた。 気だるそうに振り返ると呆れた表情を浮かべているのは宮田一郎。 注釈を加えると、大抵呆れた表情を浮かべている。呆れた表情と言うか、無愛想。 「いひゃい...」 むに〜んと頬を引っ張られては抗議した。 「お前、今なんか失礼なことを思っただろう」 さすがに鋭い。 宮田一郎はボクサーだ。良く分からないが、格闘技をしている人はどうにも鋭そうだと思う。勝手なイメージだが、この宮田一郎は意外と鋭いので、きっとそんなに外れではないと思う。 「もお、痛いなぁ」 手を離してもらったは頬を擦りながらそう零した。てくてくと家に向かって足を進める。宮田もその歩調に合わせて足を進めた。 「失礼なことを考えてたが悪い」 「そうとは言ってないでしょ?」 「じゃあ、思ってなかったのかよ」と返した宮田に「事実を頭の中で確認してただけ」とが言う。 「ほう?事実??」 じっとの顔を見下ろしながら宮田が彼女の言葉を繰り返す。 は宮田を見上げてそのままそっと視線を外した。 「ほら、失礼なことを思ってたんじゃねぇか」 「思ってないよ。一郎は無愛想だって思ってただけだよ」 「まあ、確かにそれは事実だ」 宮田は納得した。 「でしょ?」と胸を張ってが返すと「人に言われるとムカつくけどな」とデコピンをする。 「いたい」と宮田を睨みつけると彼は口角を上げて「そうかよ」と言う。 イジワルだ。 そう思いながらまた欠伸。 「寝不足か?」 「ううん。そうでもない。けど、昼寝日和じゃない?」 に言われて「まあ、気持ち良い風は吹いてるよな」と宮田も同意した。 そのままふたりは夕飯は何を食べようかとかそんな他愛の無い話をしながらマンションのエレベータに乗り、同じ部屋の前で足を止めた。 鍵を出したのは宮田で、先に家に入ったのはだ。 2人は1年位前から一緒に暮らしている。 『1年位』というのは本人達の話で、特にそういう区切りのようなことを気にしない2人なので、世でいう『記念日』は周囲に気づかされることが多々ある。 「そういえば、一郎は何故に外出?」 特に予定を聞いて行動をするようなことは殆どないが、出かけるときには前日に何となく話しにのぼるのが通例だ。 「ああ、練習に付き合ってくれって言われたから」 「へー。ちゃんと練習の相手として不足は無かったのかしら?」 宮田は「たぶんね」としれっと返した。 コーヒーをマグにいれてテーブルに置く。 そのまま何となくテレビをつけてボーっと眺めていた。 ふと、が静かになったなと思った宮田が彼女を見ると目を瞑って舟を漕いでいる。 このまま放っておいたら豪快にテーブルに頭から突撃しそうだから、と宮田はをベッドに運ぶことにした。 「よっ」という掛け声でを抱え上げた。 「そろそろ夏だぞ?」 春眠暁を覚えずという言葉は聞いたことがあるが、今は夏のすぐ手前だ。 しかし、を持ち上げてふと思った。 「おい、狸寝入りしてんじゃねぇか?」 「してない」 なら返事をするなよ、と苦笑をしつつ、宮田は『寝ている』をベッドに運んだ。 「んで、夕飯は何にするんだっけ?」 「一郎がつくる何か」 「激辛麻婆豆腐」 宮田の言葉にはむくりと起き上がって「わたしが作る」とベッドを降りた。 「何だ、残念」 「辛いものを食べたらお腹がシクシク痛くなるんだもん」 そう言って振り返るに「最初から狸か?」と宮田が聞いた。 「うとうとはしてた。うたた寝って気持ちいいよね」 「かもな」 宮田はそう言って欠伸をした。 何だかの眠いのが移った様だ。 「大きな口」と笑うに「人のこと、言えないだろ」と宮田が返す。 「かもね」とは笑う。 「ね、一緒に買い物行こう?」 「ん、いいぜ」 2人は一緒に家を出て行く。 数分後のスーパーでは、激辛麻婆豆腐の素を籠に入れようとする宮田とそれを阻止しようとするが賑やかにじゃれていた。 |
桜風
10.5.1