バースデーケーキ





家に帰るとドアの前に佇む人影があった。

眉間に皺を寄せた宮田はその人物が誰かに気づいても眉間の皺はそのままだった。

「何やってんだ?」

「あ!お帰り。暑いよねー、もてなして?」

首を傾げて可愛く言う彼女に宮田は盛大な溜息をついて「...」と呆れた声を漏らした。


鍵を開けてドアを開けると宮田を押し退けるようにが家の中に入って扇風機のスイッチを入れる。

「ねえ、エアコン買おうよ」

「必要性を感じねぇ...」

そう言って宮田はバスルームへと足を向けた。

先ほどまで走っていたので汗を掻いていて気持ち悪い。

シャワーを浴びて髪をタオルでガシガシと拭きながら出てくると、がインスタントコーヒーを淹れているところだった。

そういえば、先ほどドアの前に佇んでいたときには何かを持っていたと思うが...

基本的に自分に食べ物の差し入れをしてくることはない。

何を食べても大丈夫か良く分からないから、と本人が言う。

まあ、絶対に覚えてもらって更に差し入れをしてもらおうとは思っていないので宮田もそのことに関して特に文句はない。

「冷蔵庫に麦茶があっただろう?」

さすがに冷たい飲み物が欲しくなったりするから冷蔵庫に作り置きをしている。

「うん、あったけど。今はコーヒーか紅茶。で、この家には紅茶がなかったからコーヒー。ねえ、ティーパックの方が楽じゃない?」

「そっちの、湯で溶かす方が楽だろう。一々ゴミが出ないし」と返す宮田には「労力に対しての味が合わないって言うか...」とブツブツと言う。

そんなに肩を竦めて宮田はタンスから着替えのTシャツを取り出して袖を通した。

「んで?何でウチに来たんだよ」

特に珍しくもないが、大抵何かしらの言い訳臭い理由がオプションでついている。

「えー、こほん」とわざとらしい咳払いをしては宮田を見てニコリと笑う。

「誕生日おめでとう」

「ぱちぱちぱち」と自分の口でも言いながら拍手をする。

「は?」

「お誕生日、おめでとう」と言いながら自分の携帯を開いて宮田に見せる。

確かに日付のところには8/27という文字がある。

「ああ、そうか...」

改めて漏らした宮田の言葉にの目が丸くなる。

「自分の誕生日、忘れてたの?」

「まあ、な。必要ないし」

「あるよ!」

間髪入れずにが返した。

その気迫に押された宮田は軽く仰け反る。

「うん、ある」ともう一度力強くが言う。

「まあ、どっちでも良いけど」と気迫に押された自分がちょっと情けなくて宮田は適当に返した。

その答えに満足したのかはうんうんと頷いて、徐に冷蔵庫を開けた。

そして取り出したのはこの近所の洋菓子店の袋だった。中に小ぶりな箱が入っている。

「見て!」

そう言ってコーヒーをまずテーブルに運んで、箱と皿とフォークを運んでくる。

そうしてもう一度「みて」と声を掛けられた宮田はその箱の中を覗いた。

ケーキがワンピース。その上に『たんじょうびおめでとう』というプレートが置いてある。

「本当はホールじゃないとやってくれないらしいんだけど、頼み込んでみたらやってくれた。どの道、有料だったし」

はそう言いながらケーキを取り出して皿に載せる。

「ではでは」と姿勢を正して宮田に向かって歌を歌う。誕生日をお祝いする歌。おそらく、殆どの人が知っているその歌は、今の年になって聞くと恥ずかしいというか、ちょっとした罰ゲームのようにも取れる。

「では、いただきます」

が手を合わせてケーキに向かってそういった。

「おい」と宮田が声を掛ける。

「なに?」

既にひとくち口に運んだはフォークの先を唇に当てて首を傾げた。

「オレの誕生日を祝うんだろう?」

「うん。だから、今お祝いを盛大に。歌声に乗せた」

結構調子っぱずれだったけどな...

そんなことを思いながら宮田はの手元を見る。ふたくち目が彼女の口に運ばれた。

もぐもぐと幸せそうにふやけた笑顔を浮かべて宮田の言葉を待つに宮田はもう文句は言えない。

溜息を吐いて「なんでもない」と返すと「そう?」と言っては順調にフォークを口に運んでいく。

まあ、良いか。コイツがこんなに幸せそうに笑ってるんだから...

ガラにもないことを思った自分にちょっとげんなりして彼女の淹れてくれたインスタントコーヒーを飲む。

少し薄めだった。

ああ、そうか。インスタントコーヒーを淹れるのは苦手だったな...

そう思いながらの顔を眺めていると彼女は目の前のケーキを完食して「ご馳走様でした」と空になった皿に向かって手を合わせていた。

」と宮田が声を掛けると「なに?」と甘いものを摂取できたことによる幸福感によるものか、満面の笑みを向けてきた。

宮田は手を伸ばして彼女の口元を拭う。

「いくつだよ。ったく...」

そう言ってそのままの口元を拭った親指をぺろりと舐めた。

は目を丸くしてその一連の動きを見ていたが、声が出ない。

「甘っ」と宮田が眉間に皺を寄せて感想を呟き、彼女の顔を見ると顔が真っ赤になっていた。

特に意識しなかったその行動だったが、の顔を見たら何だか恥ずかしくなってくる。

「ま、これで今年の誕生日はケーキも食べたことになるか」

しれっとそう言って宮田は残りのコーヒーを煽るように飲んだ。











桜風
10.8.27掲載
11.4.24再掲
(みやたん投稿作品)


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