| ピンポーンとインターホンが鳴った。 出ると目の前には鼻の頭を赤くしたが立っている。 「やあ!」とコートのポケットに突っ込んだまま彼女が言う。 「さん。どうしたんですか?!」と少しだけ驚いた様子で宮田が返す。 「寒い、入れて!」 そう言って彼女は宮田を押し退けて部屋の中に入っていく。 溜息をついて宮田は彼女のあとを追った。 「寒い寒い」と言いながら彼女はコタツの中に一直線。 一瞬だけテレビのリモコンのスイッチを押すためだけにコタツ布団の中から手を出してまたコタツの中に手を仕舞う。 「さん。コート、貸してください」 テレビに夢中のは「えー!あったまってから脱ぐ」と訴えるが「ダメです」と宮田に返された。 結局しぶしぶ宮田の言うとおりコートを脱いだ彼女は「さっむ...」と呟いていて一度ぶるりと震えた。 「で?どうしたんですか、突然」 「迷惑だった?」 伺うような目でそう返されて「はい」などといえるはずが無く「そういうわけじゃないですけど...」と言葉を濁した。 こんな時間に来るなんて、というのが宮田の今の気持ちだ。 この家の周辺はそんなに明るくない。自分の家の目と鼻の先でに何かあったらと思うと心が騒ぐ。 「今日さー、何の日?」 に言われて少しだけげんなりした様子の宮田が「2月14日ですね」と質問から少しずれた答えを口にした。 そんな宮田の様子には少し驚いた様子で「あれ、もしかして多かったの?」と言う。 「ええ、嫌がらせのように」と少しイラついたように宮田が呟く。 「あらら、大変ねー...ファンは多いほうが良いんだろうけど」 「...まあ、そうですね」 多いに越したことは無いとは思う。その方が客を呼べるし。 しかし、配慮してもらいたいことだってある。 「それで、さんは?」 「これ」とコタツの上に置いている小さな鞄を指差してまたコタツの中に手を入れる。 袋を持ち上げて宮田がそれを覗き込む。 「苺..ですか?あの、果糖も結構..その...」 言いにくそうに宮田が言う。彼女なりの配慮だったのかもしれないと思ったのだ。 果糖もカロリーがある。今は特にウェイトを絞る必要は無いが、普段から控えているのはたぶん、彼女も知っているはずだ。 しかし、彼女の意図はそうではないらしい。 「うん、知ってる。だから、わたしに食べさせてあげるという重要かつ、中々経験できない任務を一郎くんにプレゼント」 「...自分が食べたかったんですね」 呆れるやら、少し残念やらで宮田は複雑な気持ちを抱きながらもキッチンに向かった。 暫くして洗ってヘタを取った苺を入れたボウルを持って宮田が戻ってきた。 「うわーい、ありがとう」 そう言ってがコタツから手を出した。 しかし、宮田は彼女からそのボウルを遠ざける。 「一郎くん?」 「『重要かつ、中々経験できない任務』でしたっけ?」 「え?」とは固まった。 「はい、口を開いてください」 「あの、冗談...」 「せっかくさんがプレゼントしてくれるって言うんですから。ほら、あーん」 ...怒ってるかも。 こっそりと心の中でそう呟き、宮田を覗うように見上げる。 目が合った宮田がニコリと微笑んだ。 「あの、貴重な笑顔を見られただけで既に胸がいっぱいなので、自分で食べます」 「遠慮しないでください。俺、さんに食べさせることが出来るんだって思って丹精込めて洗いましたから」 まだ笑顔だ。 これは、たぶん勝てそうにない。 は視線を外して小さく口を開けた。 「それじゃ苺は入りませんよ?」 「一郎くんは、怒っているのかしら?」 思い切って聞いてみる。 「怒ってはいませんけど、せっかくだから楽しもうと思って」 「いい心がけね」と投げやりに呟いて観念したは口を先ほどより少し大きく開けた。 宮田もこれ以上からかうのはやめようと少し反省してそのまま彼女に苺を齧らせる。 「どうですか?」 「一郎くんの愛がこもってて、それはそれは甘いわ」 やけっぱちに言ったのだが、その言葉は宮田にとって不意打ちで、彼は目を丸くして赤くなる。 「あら、いやだ。こっちまで恥ずかしくなるんだけど...」 はそう呟いて俯く。 暫く2人は言葉を口にすることが無かったため、部屋の中にはテレビで流れるバラエティ番組の笑い声だけが響いていた。 |
桜風
11.2.14
11.4.24再掲
ブラウザバックでお戻りください