| 「木村?!」 土手で擦れ違った女の人が俺の名前を呼んだ。 足を止めて振り返ると...誰だっけ? 「うわぁ、やっぱり木村だ。元気にしてるみたいじゃん。...あたしのこと、分かんない?」 眉間に皺を寄せて彼女がそう言う。 俺は過去の詰まっている記憶の引き出しをひっくり返してみたけど、思い出せない。 焦っている俺を見て彼女が苦笑をして 「第1ヒント。幼稚園が同じでした」 という。 そこまで記憶を遡らないといけないのか?自信ねぇよ、俺。 必死に記憶を辿っているとクスクスと笑いながら 「小学校も一緒で、2年間は青木と、4年間は木村と同じクラスでした」 と次なるヒントを出してきた。 ...あ! 「!」 「ご名答。改めて久し振り。6年ぶりくらいかな?どうしたの、リーゼントは?」 うわぁ、痛い思い出だよ。 「とっくの昔の卒業だよ。でも、本当に久し振りだな。お前、中学の途中で引っ越したもんな。は、今何やってるんだよ」 「ピッチピチの専門学校生。木村は...スポ根にでも目覚めたの?ジョギングなんかしてさ」 『ジョギング』か。まあ、普通の人は『ロードワーク』なんて言わないか。 「まあ、な。俺ボクシングやってるんだよ。こう見えてもプロなんだぜ。高校を辞めてから始めたんだ。...の通ってる専門学校って、お菓子作りのか?」 「そだよ。何で分かったの?」 「いや、お前今凄く甘い匂いさせてるんだよ。焼き菓子の匂い。でも、そうか。はガキのときからお菓子屋さんになるのが夢だったもんな。頑張ってんじゃん」 「へへ。でも、木村は夢が変わったんだね。確か、幼稚園のときは『パンダ』になりたいって言ってたよね。小学校のときは..あ、『図書館の人』だっけ?あたしとしては、どうやってパンダになるのか見てみたかったのにな」 記憶力いいなぁ。俺ですら忘れてたぜ『パンダ』なんて。 「頼むから、それ忘れてくれ。俺の今の夢はボクシングで日本一だ」 そう言ってシャドーをしてみせる。 彼女は目を丸くして拍手をした。 「凄い!木村、今本物のボクサーみたいだったよ」 俺の話、本気にしてなかったな、コイツ。 「だから、さっきからそう言ってんだろ。ま、今度見てみろよ。青木も同じジムのボクサーだしよ」 「アンタたち、まだ一緒なの?相変わらず仲良いね」 「腐れ縁だ!仕方ないだろ。あ、俺もう行かないと」 「あ、あたしもだ。ごめんね呼び止めた上に長々と話し込んじゃって」 「いや。...、お前よくここ通るのか?」 「週一のペースで。この近くで習い事をしてるからね」 「そっか。じゃあ、また会うかもな。そんときはまた話をしようぜ」 「木村が良ければいつでも。じゃあ、頑張って!」 「お前もな」 を残して俺は練習に戻った。 6年前と変わらないが何だか嬉しかった。 ジムに戻ったら青木に話してやろう。 何てったって、は青木の初恋の相手だもんな。 そして、誰にも話したことはないけど、俺の初恋の相手もだったんだよな。 |