| 悪夢は突然に訪れるって本当のことだったのね... 私は隣を歩くこの人を見上げて溜息を吐きたくなった。 「あの、おじさま。今何と?」 「だから、ちゃんもそろそろいい歳だろ?ここらでお見合いなんてどうかね?」 「いや、あの...」 『いい歳』ってなんだよ?!って叫びたいのも山々だったけど、そこは我慢我慢。 「ほら、この人だよ。将来有望だよ」 そう言って写真を見せられた。 どう考えても隠し撮りって感じの写真。しかも、ジャージかよ?! 「おじさま、あの、ジャージに見え..るのです、が?」 私の見間違いかもしれない! そう、これは実はどこかの国の正装...んなワケないよね、思いっきり日本人だし。 「ああ、彼は写真を嫌うからね」 目、泳いでいますよ〜? 「それで、この方のご職業は?」 「プロボクサーだよ。今、何たらのチャンピオンなんだよ」 『何たら』って何さ?! そんなことも知らずに有望って何?? 思いっきり突っ込みを入れたくなるのを我慢して、話を続ける。 どう波風を立てずにさっさと断ろうかと考えていたら、あれよあれよと言ううちにお見合いが勝手に決まってしまった。 波風でも何でも立てとけば良かった... 『後悔先に立たず』 そんな言葉が私の頭を過ぎった。 バックレようか本気で悩んだけど、まあ、おじさまの顔を立てておくのも悪くない。 でも、冷静に考えてみると今回のお見合い相手の『宮田一郎』。 私よりも年下。スポーツで生計を立てるってことは、収入が安定してない。でもって、よく分かんないけど、スポーツ選手の妻って栄養とかそんなの考えないといけないらしい。 ...イイトコないじゃん。 マイナスからのスタートってもう先が見えてる気がする... まあ、仕方がない。ちゃっちゃと終わらせよう。 そして、当日。 「一郎くん、こちらはさん」 「さん。こちらは宮田一郎くん」 という紹介から始まり、お決まりのパターンであとは若い2人でとか何とか言っておじさまたちは出て行った。 .........。 何か話せッ!! お前の口は飾りか、宮田一郎!! 益々マイナスイメージが強くなるこの男。ある意味凄いわ... 「あの、外へ行きませんか?」 ここじゃ、きっと隣の部屋でおじさまたちが聞き耳立ててるに違いない。 「いいですよ」 あ。しゃべった。 飾りじゃなかったらしいその口から発した言葉はどうでもいいけど、でも、声は結構好きかも... そのまま外へ出て散歩をするけど。 やっぱりあの口から音が出るのは稀なことらしくて、全然話さない。 これは、アレか?実は我慢大会か??しゃべったほうが負けってことか?! こうなったら意地だと、私も何も話さずにただひたすら通夜か何かの如く沈黙を守って足だけを動かした。 いつのまにか公園まで歩いていた。 今日は休日で子供たちが楽しそうに遊んでいる。 いつかはこの子達にも今の私のような理不尽な出来事がおこるのかと思うと、温かい目で見守ってしまう。 ひとりの子が目の前でこけた。 ワンワン泣く子供の前に私はしゃがんだ。 「自分の力で起きなさい。出来るよね?」 そう声を掛けてみると、ぐっと歯を食いしばって起き上がった。 「えらいねー。キミは強いね」 そう言ってハンカチで顔に付いた砂とかを落としてあげると 「ありがとう、オバちゃん」 思いっきりしばきたくなったけど、ここは大人の余裕を見せねば。 「気をつけて遊びなさい」 そう言って立ち上がると横に控えていた宮田一郎が噴出した。 「何ですか?」 「いや、何でもないですよ。でも、手を貸すのかと思いましたよ」 「そうですか?自分で出来ることなのに態々手を貸してあげたら、それはあの子の為にならないじゃないですか」 そう言って宮田一郎を見上げると 「そうですね」 ちょっと待って。それは反則!! 今までのマイナスイメージを帳消しにする優しい笑顔に思わずクラリときてしまった。 「さん」 いきなり名前で呼ぶのか... 「はい?」 「この話、断る気満々でしょ?」 ヤバイ、ばれてる?! 「あの、えーっと...」 「なんか、すごく無理してるように見えますよ。あと、正直、俺も断るつもりでした。初めから断ろうと思ってたんですが、後援会の方の紹介だって話で、それで会いもせずに断るのは良くなってことになったから」 あー。彼も彼で可哀想なのねー... 「でも」 そう言って宮田くんは私を見た。 「さんって面白いから保留ってのじゃ駄目ですか?」 「は?!」 保留?お見合いでそれってアリ?!てか、面白いって何さ?? いや、アンタはそれでいいかもしれないけど...私、親戚に『いい歳』って言われてるんですけど?? 「俺は今ボクシング以外のこと考えられません。だから」 「あー。了解。あれだ。今回のは出会い。それで行こう!」 言葉を探しあぐねている彼を見て思わず助け舟を出してしまった。 「えっと、どういう?」 「ほら、学生のときだったらクラスが一緒になっただけって事。その後、友達になるか、恋人になるかそういうのってわかんないじゃん?そういう状態。ゼロからのスタートってやつ」 「OK.あ、でも、さんのところはそれで大丈夫なんですか?」 「あのさ、あんなことを言ったあとで心配するな!...大丈夫。お姉様に任せなさい!!」 その後、おじさまには私から話をつけて今回のことは丸く収まった。 「そういえば、一郎くん。あの公園でなんで噴出したの?」 「ああ、さん自覚ないでしょう。すぐに思ったことが顔に出てるって。だから、今回のあの話も嫌々だったって分かったし。あの子に『オバちゃん』って言われて何とか我慢したってのがよくわかったから」 とさらりと言った。 一郎君とはゼロからのスタートだと、フィフティフィフティだと思ってた。 でも、もしかしたら私の方がマイナスだったのかも... いつになったら一郎くんと同じ位置、ゼロ地点にいけるのか。 人生で初めて焦った気がした。 |