夢の中へ





「はんっ!2回も負けてるくせに!!」

「何やて?!もっぺん言うてみ!」

「何度でも言ってやるわよ!『負け負け千堂』!!」

〜!!」

なにわ拳闘会で、ほぼ日常茶飯事となっている2人の口喧嘩を皆は温かい目で見守る。



数ヶ月前にふらりとジムのドアを開けた少女はこう言った。

「あたしにもボクシングを教えてください!」

一見お嬢様風だったに皆は声が出ない。そんな子が何故ボクシング?そう思った。

しかし、

「なんや、その髪は。ボクシングするなら動きやすうせんと。邪魔になるだけやで?」

と沈黙を破ったのが千堂だった。

「千堂!?」

千堂の愛想の無い言い方に柳岡は諫めるように名前を呼んだ。

ここに入ってきたのも何かの間違いで、勿論、先ほどのの言葉は集団で聞き間違えたのかも知れない。

しかし、

「そっか。そうですね、じゃあ、明日また来ます」

と言ってあっさり帰って行った。


翌日。

ジムのドアが開いて人が入ってきた。

「お!すっきりしたやないか!!」

満足そうにそう言った千堂の目線の先には、あのが立っていた。

あんなに綺麗だった髪をばっさりと切り、はまたこのジムにやって来たのだった。

そこまでの決心があったのなら断れないということになり、はなにわ拳闘会の練習生としてその身を置くことになった。


練習生としてのはすぐにジムの雰囲気に溶け込んだ。

寧ろ、初めから飲まれていなかった。

元々素直な性格で運動神経が良かったのか、吸収が早く皆を驚かせた。

歳も近いということもあり、千堂とも仲良くなった。

そう、口喧嘩をする程度に。

そして、顔を合わせると何故か言い合いになっていた2人だが、ここ最近の様子がおかしい。

「お?最近太ったんか?それで悩んどるんやろ!」

いつものように千堂が憎まれ口を叩くが

「ううん、寧ろ減ってる」

と元気の無い声が返ってくる。

「どしたんや?悩みがあるなら言うてみや?痩せすぎて悩んどるんやったらメニューもっと軽いのにするか?」

いつもと様子の違うにトレーナーが声を掛けるが

「いいえ、このままでお願いします。いや、もっときつい方がいいかも」

などと言う。

「ホンマ、どないしたんや?いつものらしくないで?」

気味が悪そうに千堂がそう声を掛けた。

いつものように言い返してもらわないと調子が狂う。

「最近さ、夢見が悪いのよね。ああ〜、夢、見たくないな...」

のその言葉でやっと皆は合点がいった。

目の下にあるうっすらとしたくまは痩せて出来たものではなく、寝不足で出来たものらしい。

その後もはため息を漏らす。

「まあ、気にするなや。今度悪い夢を見たらワイを呼んだらええわ。ワイが夢の中でそいつをボコにしたるわ」

そう言ってニカッと笑う。

「なっ!」

驚いたの顔は見る見る赤く染まっていく。

「ば、バカじゃないの?!私、ロード行ってきます!!」

は慌ててジムを飛び出した。

「何やと?!『バカ』っていうな!!」

の出て行ったドアに向かって千堂は叫ぶ。

「千堂...」

ポン、と柳岡に肩を叩かれて千堂は振り返る。

「何やの、柳岡はん」

「お前、実は天然やったんやな」

そう一言言って去って行った。

自分の爆弾発言に気付いていない千堂は腕を組んで首を傾げる。


翌日から、の顔色は良くなり、再びジムに2人の会話が響く。

「誰が『バカ』やねん!」

「アンタよ!名前も言おうか?千堂武士さん?」

「何やてー!」

それは平和な証拠だと、ジムの皆は温かい目で見守る。





私が夢見が悪くて『悪い夢を見たら自分を呼べ』って誰かに言って欲しくて、千堂(笑)
いや、天然で言いそうにないですか??


桜風
05.7.7
05.8.26再掲



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