意外なこと





「宮田って、何かしてるんだよね?」

朝、宮田が教室に入るとクラスメイトのが声をかけてきた。

「息?」

「ふざけんな」

そんな短い会話をしたところでチャイムが鳴った。

は不機嫌そうに自分の席へと戻っていく。

何が言いたかったのかさっぱり分からない、といった表情で宮田は首を傾げて自分の席に着いた。



そんな会話のあった前の日の出来事。


は部活動に勤しんでいた。

テニス部だ。

高校受験前に夜中まで勉強をしているときにウィンブルドン大会を目にしてしまった。

自分があそこに立てるだけの才能があるとかそういうぶっ飛んだ考えはしていないが『テニス』というものに憧れるだけのインパクトはあった。

だから、頑張って高校に入ってテニス部に入部するというのを目標にこの学校に入った。

余談だがこの学校は特にテニス部が強いというわけではない。基本初戦敗退の学校だ。

それでも、『テニス部』というのがある。それだけで一応は満足している。

そこまで厳しくないってのも評価できる点だ。

それはともかく。

ラリーをしていると友人の打った球が見事にあさっての方向に飛んでいった。

そこへちょうど男子生徒が歩いていたので「危ない!」と声をあげるとその男子生徒は何事もなかったかのようにそのテニスボールをキャッチしたのだ。

どこの野球部だ、と思ったがそうではなく、彼はのクラスメイトで帰宅部所属の宮田一郎だった。

「ありがとう!」とラケットを振ってみると彼はボールを投げて寄越す。そこまでコントロールはよくなく、ボールはの手の届かないところへと飛んでいった。

しかし、あのスピードのボールを難なくキャッチするとは...

感心しつつも野球部に売ってやろうかと思ったのは、本人には内緒である。

「ねえ、さっきのって..宮田くん?」

「だろうねぇ...って何で宮田のコト知ってるの?」

「一応、そこそこ有名人。無愛想だけど、静止画でなら鑑賞に値するって」

...好き勝手に言われているようだ。

「宮田くんって部活してるのかな?」

「たぶん、帰宅部」

「もったいない...」

先ほどのテニスボールをキャッチしたそれを評価しての一言だろう。

も同感だったから頷いておいた。




「何かしてる?」「息」

という何ともコミュニケーションを放棄されたと判断してもおかしくない会話をした日の放課後、はその日も部活動に勤しんだ後、帰路についていた。

友人たちと買い食いをしてからの帰宅だから結構遅い。

テクテクと歩いていると車道を挟んで向こう側に見慣れた人物が走っている様子を目にした。

は反射的に振り返る。

「宮田!」

そう呟いて思わず今来た道を戻りながら反対側を走っているクラスメイトを追いかけた。

行き着いた先は..

「ジムぅ〜?」

『ボクシングジム』と看板が掛かっている。

胡散臭い。こういうところは馴染みがないから特にそう思ってしまう。

「おや、入会希望の方ですか?」

不意に声をかけられて勢いよく振り返る。

「あ、い..いえ...」

というかボクシングで入会って何だ?こう見えて花も恥らう女子高生だぞ?

そう思っていると声をかけてきた人はの心境を察したのか「最近多いんですよ。エクササイズとしてボクシングをする女性が」とフォローした。

なるほど、そういうことかとは納得した。

「あ、いえ。ちょっと知ってる人が走ってたので何となく追いかけてみたら..ここに。見間違いだったのかもしれません」

そう言って頭を下げ、来た道を戻ろうとした。

?」

...どうやら見間違いではなかったらしい。

が振り返るとジャージ姿の宮田がジムから顔を出している。

「何してんだよ、こんなところで」

「...息」

朝とは逆の会話だが、そのの答えに宮田は盛大に溜息を吐いた。

って案外くだらないことを言うんだな」

「その言葉そっくりそのまま、むしろ熨斗をつけて返してやる!!」

ビシッと指差してが声を上げる。

何を言っているか分からないという表情を浮かべる宮田には心の中で地団駄を踏んだ。

コイツは記憶力がないのかぁーーーー!!

「まあ、いいけど。オレ、もうあがるからちょっと待ってろよ」

そう言って宮田は居なくなった。

何だ?何で待ってるんだ??

自問自答を繰り返すこと10分。

宮田がジムから出てきた。

中で待っているように、と言われたが全く馴染みのない世界に足を踏み入れる勇気がなくて、外で待っていた。

「中で待ってたらよかったのに」

そういった宮田はそのまま歩き出す。

は慌ててその背中を追いかけた。

「何で待ってなきゃいけなかったの?」

言われて大人しく待ってた自分もどうかと思ったが何となく聞いてみた。

「もう遅いだろう?」

宮田の言葉には目を丸くする。

「部活してたらこれくらいになるときもあるよ」

「そっか。あー、テニス部だっけ?」

はまたしても目を丸くして宮田を見上げた。

「だって、前に言っただろう?」

いつだろう...

「えーと、5月くらいだったかな?オレが放課後教室に残ってたとき」

ああ、そのときか。

は納得した。



放課後、忘れ物をして教室に戻ると宮田が机に突っ伏して寝ていたのだ。

いつもさっさと帰るのに、と思って声を掛けると宮田は慌てたように椅子を蹴って起き上がった。というか、起きると同時に立ち上がった。

「今何時!?」

「5時前」

「やばい!」

そう言って慌てて荷物を片付けている宮田を尻目には自分の机の中から教科書を引っ張り出した。

宮田が慌てることって珍しいなー、と思いながら見物してると

「サンキューな」

と言って彼は教室を慌しく出て行った。

ふと、机の上を見てみると財布を忘れている。

意外とうっかり者だ、と思いながらは宮田を追いかけた。

正門あたりでやっと追いつく。

「助かった。って足、速いんだな」

「テニス部さんですから〜」

軽くそういうと宮田は苦笑して「ありがとう」ともう一度礼を言って駆け出した。

「あんたこそ何者よ」

思いのほか足の速かった宮田の背を見送りながらはそう呟いた。



「よく覚えてたね...」

感心したようにが言う。

「財布忘れる間抜けなことをしたから、そのセットで覚えてたんだよ」

苦笑して宮田は答える。

「宮田って、意外と表情豊かだね」

「...そんなこと言われたの初めてだけど?」

「じゃあ、あたしが宮田の初めての人かぁ...」

そう呟くに複雑な表情を浮かべて宮田は少し歩調を速めた。

「ちょっと、レディに歩調合せなさいよね」

「レディってのが居たら、な」

そんな返事には口を尖らせて拗ねながら自分のペースで宮田の少し後ろを歩く。

しかし、いつの間にか歩調を合わせてくれている宮田に気づき、は機嫌を直して「ありがとう」と呟いた。





リクエスト内容
『宮田』

リクエストありがとうございました!!





桜風
09.7.19


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