| 9月の半ば、夏の暑さも随分落ち着いた頃、彼女が聞いた。 「そういえば..木村くんって最近ほしいものとかあるのかな?」 唐突に振られたその言葉。 木村は目を丸くして、そして苦笑した。 自分はかなり敏い方で、それでもこのの話の振り方はあからさまではなかろうか。 「そうですね、特にないですよ」 そう返してみたら、「そ、そう...?」と困り顔で何食わぬ風を装った返事がある。 何食わぬ風を装いきれていないことを指摘したらどんな顔をするだろうか... 少し意地の悪いことを考えながら木村はクスリと笑う。 「まあ、そうですね。強いて言えば...」 「強いて言えば!?」 食いつきすぎです、と思いながらも「カバン。スポーツバッグみたいなのがほしいですね。今使ってるのも結構使い込んでますから」と言っておいた。 無難な、そんなに高価でなく自分がいつも使うもの。 「ふーん、そうなんだ?」 そう言っては少し空を仰いだ。 たぶん、いつも自分が持っているものを思い出そうとしているのだろうと思って木村は再び苦笑した。 と木村は微妙な関係といえば微妙な関係だ。 恋人というには、どうにもまだ遠いような気がする。 けれどもただの知り合いって言うとよそよそしくてしっくり来ない。 自分でも微妙だな、と木村は時折思っていた。 そう思うなら行動を起こせばいいのはわかっているが、それでもこの距離感が心地良いことも確かだった。 まあ、このままでいいか... そう思って既に半年ほど経ってから、先日ののあのことば。 お互い、誕生日は知っている。 しかしそれ以外でも何となしにプレゼントしたことあるし、同じく大した理由もなくお土産という名目でプレゼントを貰ったことがある。 そろそろ頃合かなぁ... そんなことを思いながら過ごして10月。 店の配達に出ているとを見かけた。 声を掛けようと車の窓を開けて、出来なかった。 会社の同僚というには2人を包んでいる雰囲気というか距離感が近い気がする。 悲しいかな、色々と経験を積んでいるお陰でそういうのには敏感な方だ。 「あー、そーか」 トンビに油揚げ、じゃないがのんびりしているとこういう事態が起こるということをすっかり忘れていた。 パッパーと後続車にクラクションを鳴らされてアクセルを踏んだ。 あー、そーか... 心の中で何度も繰り返す。 自分を納得させるように、諦めさせるように... 10月10日。 プロボクサーには休日祝日関係ない。 と、いうわけでジムで練習に励み、シャワーを浴びて帰り支度をしているところで携帯が鳴った。 発信者名を見て一瞬ためらい、だからって無視をするのは大人気ないと思って電話に出た。 近くまで来てるから、会えないかという。 こういうとき、半端な距離を保っていた自分が恨めしい。 心地よくても何でも、どちらかはっきりさせておけばよかった。少なくとも、自分の中では。 そんなことを思いながらいつもより少し重い足取りで木村は彼女が待つといっているファミレスへと向かう。 一応、着替えて車で向かった。帰りは送ったほうがいいだろうから。 「しかし、まあ。未練たらしいなぁ」 呟くと余計に惨めになる。後悔先に立たず、なんて諺が頭に浮かんで溜息を吐いた。 ファミレスに着いて彼女を見つけた。 何で目敏いんだろう。 この時間、結構客が居てもすぐに見つけられる彼女の姿に、いい加減溜息を吐いた。 「ごめんね、練習で疲れてるでしょ?」 「あ、いえ」 溜息を吐いたところを見られていたのかと思うと少しバツが悪い。 「じゃあ、もうちゃっちゃと本題」 そういった彼女の言葉に、ああ、そういえばスポーツバッグ... 約ひと月前の彼女との言葉を思い出した。 しかし、テーブルに置かれたものはドスンと重量のある音を立てた。 「え、これ...」 木村は目を丸くする。 その表情を見たはしてやったりな表情だ。 「道具箱」 目の前にあるのは金槌や釘やらドライバーやらが入っている日曜大工に欠かせない道具箱だった。 「へ?!スポーツバッグ...」 「あ、ごめん!ホントにそれが良かったの??!!」 木村の呟きにが慌てる。 「あ、いや。そうじゃないです。そうじゃないけど、あの会話...」 「ああ、あれ?フェイク」 しれっと言うに木村は目を丸くする。 「だって、木村くんって敏い方でしょ?わたし、こういうリサーチっていっつもばれるのよね。だから、もうリサーチするのはやめようと思って。でも、一応念のために罠を仕掛けておいたの」 「それが、この間の...」 「そゆこと」と満足げに返してはコーヒーを飲んだ。 「あの、これ...」 「夏だったかな。家にある道具箱は結構使い込まれている上に色々となくなったものが多くて、結果役に立たない。けど、要るときがあるから買おうかとも思うけど、そんな出番の少ないものを買うのも何だかなーって思ってるて話しなかったっけ?」 「ありました、ねぇ」 「ま、それでこれにしようって思って。ウチは兄がこういうのが好きで、いろいろ知ってるから何があったら便利かって聞いて、ついでだから買い物に付き合ってもらったんだけど。さすが道具箱オタクだったわよ」 道具箱オタクってのがあるんだ... 笑いながら言うの言葉にそんな的外れなことを思ってふと思い出した。 「あれ?それって、今月入ってすぐですか?」 木村の言葉には目を丸くする。 「うん。何で知ってるの?」 の言葉に木村は思わず声を上げて笑う。 周囲の客や店員が自分に視線を集めるのも気にせずに。 「木村くん?!」 突然目の前で声を上げて笑う木村には声を掛ける。どうして声を上げて笑っているのか分からない。 「すみません」 目じりを拭いながら木村が言う。 「う、うん...」 「さん」 「はい?」 ―――もし良かったら付き合ってください。 この勢いに乗じて木村が言おうと口を開いたところで、 「じゃあ、帰ろうか」 と見事に勢いを殺された。 何だ、この空振りは... まだ振ってはないが、見事な空振り感。 肩を落としながらを送って、家に帰って道具箱を開けた。 中にはカードが入っていた。 書かれていた言葉に、木村は目を丸くした。 『もし良かったら付き合ってください』 自分が言おうと思った言葉。 「...やられたー!!」 天井を仰いでそして、また声を上げて笑い、ベッドに投げていた携帯に手を伸ばした。 |
リクエスト内容
『甘めのお話が読んでみたい』
リクエストありがとうございました!!
桜風
09.10.10
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