お姫様





「たーけーし!」

パシンと背中を叩かれて千堂はつんのめる。

「な、何すんや!」

「何って挨拶やないの。全く、プロボクサーなのに何やの。頼りがいのない...」

そう言っては「はあ」、と悩ましげに溜息をつく。

「挨拶でドツク女に言われたないわ!...今日は一段とのっぽやないか」

「ん?ああ。今日の足元は先週買ったばかりのミュールやねん。かわいやろ?」

ちょっと嫌味のつもりで言ったのにには全く通じなかったようだ。

千堂は自分よりも背の高い彼女を見上げた。

普通のスニーカーとか、あまり踵の高い靴を履いていなくても彼女の方が背が高い。はだしでも。

自分自身がそう背の高い方ではないので、自分よりも高い女の人が居るのは分かる。

分かるが...

「何?」

見上げてきた千堂にが首を傾げる。

「ほいで。今日は何処に行きたいんや」


昨日電話があった。「どうせ暇やろ。出かけようや」と。

暇と決め付けられてムッとした千堂は「と違って暇やないわ」と返し、「ほな、どんな用事があるの?」と返されて言葉に詰まる。

何せ、傍には祖母が居る。

口から出任せに「店番」といおうものなら明日1日中店番となってしまう。

「ま、まあ...のために空けてやらんこともないけどな」

「偉そうに」と見透かしたようにが笑った。

「ほな、明日付きおうてや」

時間と待ち合わせ場所を指定したは一方的に電話を切る。

「明日の用事はええんか?」

からかうように傍に居た祖母が言う。

「...ええんや」

そう返して千堂は自室に向かった。



「あんな。此処に行きたいねん」

そう言って見せてきたのは雑誌の切り抜き。

「あー?なんでこんなところに」

面倒くさそうにしながらもその切抜きを受け取って千堂は歩き始める。

まずは電車に乗って1時間。

文句を言いつつ付き合ってくれる千堂に感謝だ。

まあ、昔から文句たらたらでも付き合ってくれるのが千堂武士だ。

電車に揺られながら並んで座る。

冷房がよく効いていてちょっと寒いな、と思っていると「窓際に座るか?日があたる分あったかいはずや」と声をかけられて驚いた。

「大丈夫やねん」

「何言うてんのや。ごっつ冷えてるで」と千堂はの腕を掴む。

「ん..じゃあ...」

そう言って窓際に座りなおした。

1時間電車に揺られて次はバス。それが終わったら徒歩だ。

「どんな田舎に行きたいんや」

ブツブツ文句を言う。

確かに、人の気配が段々少なくなってきた。

「うーん...」

自分も此処までとは思って居なかったので返答に困ったが「ま、ドンマイ!」と笑顔で返すと盛大な溜息が返ってくる。

そして「アホか!」と叱られたのは目的地の麓。

山登りが必須だったらしい。

「ご、ごめん...」

さすがにこれについてはも謝る他ない。

「こんな山、どうやってその足で登るんや!!」

「返す言葉もございません...」

俯いて謝っただが「で、でも。大丈夫やねん!」と返した。

「は?!」

「登れる。うん、登れるから。そやから、お願いや」

首を傾げて少し悲しそうに言うに「あかん」と言えるはずなく、千堂は溜息とついて「無理はするんやないで」と返して足を進める。


山の頂上らしきものが見えたところで、ふと千堂は後ろからついてきていたはずのが遅れていることに気が付いた。

戻ると眉を寄せて俯いている。

足元を見ると見事な靴擦れだ。

はぁ、と溜息をつく千堂に「ごめんな」とが謝る。

の隣に来た千堂がひょいと抱え上げる。

「え?!」

「あとちょっとや。どの道、持って降りるんやったら上がってからでええやろ」

『持って降りる』という表現に多少引っ掛かりがあるがそれどころではない。

なぜなら、自分は千堂に抱え上げられている。

おんぶではない。所謂お姫様抱っこだ。

「あの、武士?!」

「帰りはおんぶやから安心せぇ」

今は後ろに重心が行く方がしんどいとぶつぶつ言っている千堂の頬は赤く染まっている。

「おおきに」

「またリベンジで此処に来たいって言われてもちょい面倒なだけや」

そう返す千堂の言葉か明らかに照れ隠しと分かる。

「ありがとう」

「もうええわ」

素っ気無く返す千堂にははにかみ、お姫様抱っこのまま静かに山頂に運ばれることにした。








40万打感謝企画でリクエストをいただきました、千堂です。
「姐御肌の長身ヒロインを希望致します。その他シチュエーション等はお任せします」
というリクエストでした。
って、...姐御?
姐御設定が出し切れていない気もしなくもないですが...


リクエスト、ありがとうございました!!


桜風
10.8.28


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