It's so happy




彼女と付き合い始めてそんなに経っていないが、ほやほやというほどでもない。

何となく店内に掛けているカレンダーを見ながら木村は思った。

「こんにちはー!」

店先から声がした。

「はーい」と返事をして木村が応対に出る。

「ああ」と少し驚いて声が漏れる。

店先にいたのは先ほど自分が考えていた相手、がヒラヒラと手を振っている。

一応、両親も彼女のことを知っているので彼女が来たからと言って別に気にならない。

まあ、別の意味で口やかましいからそれは勘弁してほしいものだが...

「どうしたの」

「近くまで来たからね」

スーツをビシッと着ているだが、休日、家で過ごすときはジャージと決めているそうだ。

先日一緒にスポーツ用品店に行って、ジャージを購入した。

しかし、部屋着のジャージならもうちょっと安いのにすれば良いのに...

そんなことを思ったが、「お揃い」と彼女が笑ったので、まあ良いやと思ったのは内緒である。

我ながら単純だ。

「んで、仕事の合間を縫ってまで俺に会いたかったんだ?」

からかって言うと

「木村くんがわたしに会いたいって思ってると思ったからね」

も負けじと返す。

今まで付き合った子は何だかんだで余所行きだったと思うが、彼女はそういう余所行きの顔をさせてくれなかった。

彼女自身が自然体だからこちらもそうなってしまうのだろう。

「それはともかく。商売して。会社に帰るからついでにお花でも買って帰ろうかと思ってるの」

の言葉に「そりゃいい」と木村は頷いた。

「それで、お嬢さん。どんなお花をお探しですか?」

「わたしが持ってて絵になるような」

「ラフレシア」

ポツリと呟く木村にニコニコと笑いながらは「もう一度?」と問い返す。

「何でもねぇ...そうだな、今の時期なら...」

そう言いながら店内を見渡す。

「これ、と..色は?」

「わたしが持ってて以下略」

「略すのかよ」と苦笑しながら「そうだな...」とを見ながら花束を作っていく。

「凄いねぇ...わたし、自分がぶきっちょだから木村くんみたいな器用な人、羨ましいよ」

「バリバリに働いているキャリアウーマンを羨ましいっていう人は少なくないと思うぜ」

肩を竦めながら木村が言う。

「逆に、それしか出来ないの」とは苦笑しながら返した。

「上手に甘えられる人も羨ましいなー」

「お?いつでも甘えて良いぞ?」

からかうように木村が言う。

「羨ましがってるってことは、苦手ってこと。分かってる?」

覗うようにが言う。

「ははっ」と笑って木村は「ほい」と作り終えた花束をに差し出した。

「まったく、ちょっと腹立たしいからフラワーコーディネートでも習いに行こうかしら」

そう言いながらバッグから財布を取り出す。

「俺に習おうとか思わないのかよ」

苦笑して木村が言う。

「木村くんに習ったら驚きが無いじゃない」

から代金を受け取り、

「ま、可愛いお嬢さんにはオマケするって決めてるから」

と小さなブーケを作ってに渡した。

「ちょっと腹立つわね」

笑いながら受け取り「ありがとう」と言っては店を後にした。



それから数日後、最近猛烈に忙しいと言っていたから電話があった。

『さて、一段落ついたの』

そう言われて

「んじゃ、今から迎えに行く」

と木村は電話を切った。

車を走らせて十数分、の自宅前について電話をした。

『本気だったんだ』

「おう。待ってるから」

支度とか色々あるだろうしと思ってそう告げて通話を切った。

しかし、そう時間が経たない内にが出てきた。

「早いなー」

「そっちが言ったんでしょう。『今から迎えに行く』って。わたしの抗議を聞かずに」

そう言うは口調は不満そうだが、表情はとても柔らかい。

「てか、本当に忙しかったんだな...」

車を発進させてから木村が呟く。

「ん?」と聞き返すに「顔が疲れたままだぞ」と労わるような表情を見せた。

「んー、いつもよりも化粧は厚めにしたのに...」

「逆にそれがなかったらうまく隠せてたかもな」

木村の指摘に「そっかー」と窓の外を眺めながらは呟いた。

やがて目的地に着き、車を止める。

「ついたぞ」と木村が声を掛ける。

「どこ、此処?」

「穴場の夜景スポット」

そう言いながら木村が先に車を降りる。

「そういうの詳しいよね」と言いながらも車を降りた。

「ほら」と木村が手を差し出す。

「ふふふ」と笑いながらはその手をギュッと握った。

「少しずつ甘え方覚えてけよ」

木村の言葉には「鋭意努力いたします」と笑顔を浮かべて敬礼を向けた。









桜風
11.5.3


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