Green





初めて見たときには鳥肌が立った。

失恋して、友達に無理矢理チケットを手渡されて行ってみた。

やけっぱちで見たあの試合。

一生忘れられないその衝撃。


でも、彼はどこの誰だか分からない。

どうやったら彼と出会えるのか分からない。

手掛かりも何もないまま彼の事を想いながら季節が過ぎて行った。




春。

土手でボーッと過ごしていた。

私はそういう時間が好きだ。

向こう岸を走る人たちが居た。あの人たちはどうして走るんだろう?何か、楽しいことがあるのだろうか。

正直、体育のマラソンは大嫌いだった。だから、ああして自分の意思で走る人が私には不思議でならない存在だ。

いい加減、バイトにいかなくてはならない時間になったから側においておいた鞄に手を伸ばす。

ふと、目に入ったのは

「四葉の、クローバー...?」

初めて見た。

こんなもので幸福になれるものかと思っていた私だけど、ホンモノを目にするとやっぱりどこか嬉しい。

幸せになるってこういうことかもしれない。

そっとハンカチに包んで家に持って帰った。

押し花(葉っぱだけど)にして栞を作ってそれを持ち歩くようになった。

そのときの小さな幸せを覚えておきたかったから。


ある日、私の友人が入院した。

病室でピンピンしているらしいけど、一応、お見舞いに行ってみようと思う。

近所の商店街を通って花屋を目指す。

確か、あの角を曲がったところにあたったはず。

私の記憶どおり、その花屋はあった。

いつも明るい声のおばさんがお店を仕切っている。

「こんにちはー」

どんな花が良いかよく分からないから、お店の人に選んで貰おうと考えた。へんな花言葉がついてるのとかだったら、流石にマズイと思うし...

しかし、中から出てきた人を見て私は思わず、回れ右をしてダッシュで今来た道を戻って角を曲がる。

「ビックリしたぁ...」

私の記憶違いで見間違いで無かったら、お店から出てきた人は、数ヶ月前私に一生忘れられない衝撃を与えた人物だった。

そういえば、あのボクサーも『木村』って言ってたきがする。そして、あの花屋は『木村園芸店』。偶然だろうか?

そろりと角から顔を覗かせて見せの様子を見ると、あの男の人がお店の前で伸びをしている。

エプロンもつけているからあの花屋の関係者かもしれない。

...病院の近くの違うお店で花を買おう。

そう思って足を進めてたけど、やっぱりやめた。

私は彼にお礼を言いたい。

あの試合を見たお陰で色々とすっきり出来た。

鞄の中にしまっている四つ葉のクローバーの栞を取り出した。


「あ、あの。すみません」

「いらっしゃいませ。...あれ?さっきダッシュで帰っていかれませんでした?」

...その記憶、削除してください。

「えっと、先ほどはすみませんでした。ちょっと心の準備が出来てなかったので」

男の人は「そうですか?」と笑いながら対応してくれる。

「それで、えっと。花束ください。友達が入院したんです。お見舞いに持って行こうと思うのですが...」

彼は愛想よく話をしながら器用に花束を作る。

あっという間に立派な花束が出来た。

やっぱり別人かなと思ったけど、どうしてもそうは思えない。

花屋で働く手先が器用なボクサーがいたって良いじゃないか。

と思ったものの、やっぱり何も言えなくて、代金を払ってお店を後にした。


あー!もうッ!!何なんだ、私!!

またもや回れ右をしてお店に戻った。

丁度彼はお店の外に立って、そして、拳を突き出して何かやっていた。

その姿が私の心に焼きついていた彼と同じだった。

だから、間違いない。

「あの!」

さっきまで鋭い目をしていた彼がふっと柔らかい目をしてこっちを見た。

「ああ、さっきの。どうかしたんですか?」

「ありがとうございました。コレ、あげます」

私のお守り代わりの栞を半ば押し付けるように渡して私は今度こそすっきりして去っていこうとした。

けど、出来なかった。

彼が私の腕を掴んでいた。

「ああ、すみません。ありがとうございます。えーと...」

彼が何を言いたいのか分からずに次の言葉を待っていた。

「えーっと。俺は木村達也って言います。あの...」

ああ、名前か。

「私はです。木村さんにずっとお礼を言いたかったんです。木村さんの試合を見て感動しました。すっきりしました」

「すっきり...?ああ、そうだったんですか。ありがとうございます。これ、本当に貰ってもいいんですか?さんの大切なモノじゃないんですか、四葉のクローバー」

「はい。でも、私は木村さんに感動を貰いましたから。だから、その、そんなもので申し訳ないのですが...」

「ありがとう。実は今日、俺の誕生日だったんですよ。思いがけない誕生日プレゼントを貰っちゃいましたね」

そう言った彼はとても優しくて、安心できる笑顔だった。

「あの、また来ても良いですか?」

「いいですよ。いつても来てください、さん」

彼の誕生日だというのに、私こそ、また彼から思いがけない優しさをもらってしまった。

何で、この人は自然に人を癒せるんだろう...?




ビミョー!!
本気でタイトルはこれで良いのかと自問自答してしまいました。
何も始まってない...
ああ、でも。なんと言うか...
キム兄さん、誕生日おめでとうございます!!

桜風
05.10.10


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