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| 随分日の長くなってきた初夏の休日。 いつものように千堂はジムに出ていた。 カレンダーの上では休日だが、プロボクサーの千堂には祝日も休日もあまり関係ない。 練習が済んで、家に帰り、明日の朝も早いのでそろそろ寝ようとしたそのとき 「千堂くん!」 隣の家から控えめに自分の名前を呼ぶ声に気がついた。 さすがにこんな夜中に大声を出すのは憚られたらしい。 「どないしたんや?何ぞ困ったことでもあるんか、?」 窓を開けて、彼女のトーンに合わせて千堂も声を小さくしながら声を掛けた。 何となく疲れた顔をしている隣人がヒラヒラと手を振っている。 千堂の家の隣は所謂ボロアパートで、大学に通うため数年前から千堂の部屋のほぼ向かいの部屋には部屋を借りていた。 本来ならご近所づきあいをするほどでも無かったが、どうもはトラブル体質らしく、よくストーカーやら押し売りやらのターゲットになっていた。 その度に見かねた千堂が助け舟を出していた。 年上のはずのだが、どう見ても危なっかしくて放っておけない千堂は、結局いつも彼女を気に掛けている。 「えっへっへー」 そう言って何やら嬉しそうに、得意そうに笑うに千堂は眉間に皺を寄せて 「その笑い方やめぇ。気持ち悪いで?」 と声を掛けると 「しっつれいな!!」 と頬を膨らませては抗議する。 いつ見ても飽きないの素直な反応に千堂は思わず苦笑を漏らし 「で、何やの?用事がないなら、ワイはもう寝たいんやけど?」 ともう一度だけ用件を聞く。 「今から少し時間ある?」 これから寝ると言っている人にめげずに声を掛ける。 千堂も呆れながら、 「まあ、ええけど?下で待っとけばええんやな?」 と言って窓を閉めた。 何だかんだ言って自分はに甘いのでは? などと考え込んでいるとも降りてきた。 手には紙袋を持っている。 「何やの、それ?」 「今は、秘密!」 そう言っては歩き始めた。 「何処へ行くんや?」 行き先も告げずに歩き始めたに千堂が少し後ろから声を掛けると 「んー、何処行こうか?」 という言葉が返ってくる。 またいつもの気まぐれかと諦めながら、を一人置いて帰ることの出来ない千堂は大人しくそのまま一緒にの行きたいところに付き合うことにした。 少しして、川原を歩いていると前を歩いているが突然振り返った。 顔はもちろん、満面の笑み。 「ど、どないしたんや?」 その満面の笑みが怖くて思わず千堂は声を掛けると 「誕生日おめでとう!」 袋の中からクラッカーを取り出し、鳴らす。 「は?」 素っ頓狂な声が漏れ、口を開けたまま千堂は動かない。 「あ、あれ?間違った??」 あたふたとしているを見て千堂は平静を取り戻し、 「いや、合ってるけど...何やの、突然」 出合って何度か自分の誕生日は過ごしている。 大抵翌日に「誕生日おめでとうだったね」と過去形で祝われていた。 別にそれに不満が合ったというわけではなかったが、突然祝われると正直、リアクションに困る。 「はい、プレゼント」 千堂の疑問をあっさり無視しては紙袋の中身を取り出す。 「何やの?」 「家の帰ってから開けてね?」 とは言うが、今度は千堂がそれを聞かなかったことにして帰りながら包みを解き始めた。 「ちょっと!家に帰ってからって...」 その中には何故かマフラーと手袋、と思われる物体がある。 「ひとつ聞いてもええか?」 「ダメ」 はそういうが、 「今の季節は...初夏であっとるよな?」 千堂は質問を続ける。 「そ、そうよ?」 「これ、マフラーと手袋に見えるんやけど、間違ってないよな?」 「あ!やっぱり分かる?上手くいったのよ!!」 と嬉しそうには返事をするが、千堂は喜ぶところではないだろう、と心の中で突っ込みを入れる。 しかし、それを口に出すと話が進みそうもないので敢えて流し、 「何で、今の時期にマフラーと手袋なん?」 とストレートに質問をすると 「そ、それは...ほら!千堂くんって減量とかあるでしょ?夏でもあったかい恰好をしなきゃいけないって聞いたことがあるから。私って気が利く〜!!」 目が泳ぎまくってるはそう答えた。 まず、今のは思いつきだなと思いながら千堂は街灯の下でもう一度に貰ったプレゼントを見た。 それは真っ赤な毛糸で編まれていた。 ―― 千堂くんは何色が好き? ―― 黒もええけど、赤やな。チャンピオンの色やしなー 半年くらい前の会話を思い出す。 あの時期から考えて、普通はクリスマスに向けての質問ではなかったのだろうか? 「なあ、クリスマスは5ヶ月前に終わってるんやけど?」 「な!し、知ってるわよ。これは千堂くんの誕生日に向けてですね、私が夜なべして編んだものよ」 あの嬉しそうな、得意そうなの笑顔の原因が分かった。 千堂は何だか嬉しさが込み上げてきた。 「ほな、これは大事に使わせてもらうことにするわ。減量中のロードのときとかな?」 そう言って千堂はマフラーを巻き、手袋をはめる。 「あの、暑くないの?」 「いーや。あったかい。おおきに、」 笑顔で礼を述べる千堂に、も 「いいえ。どういたしまして!」 と嬉しそうに答えた。 |
何とか出来た〜! というか、5月に入ってから何となくの展開は出来上がってたんですよね。 マフラーと手袋。で、千堂が手袋をはめて微笑む。(←それだけかいッ!!) 後は、ノリと勢い!!(爆) 最近、どうやら甘〜いのが書けなくなった模様... 何はともあれ、誕生日おめでとう!千堂さん♪ 桜風 05.5.5 |
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