シーソー・ゲーム





「木村さんっていい人ですよね。」


そんな声が聞こえた。

声のする方を見ると、あたしの知っている『木村』という男が綺麗な女の人と向かい合っている。

幸か不幸か、あたしは『彼が振られる』という大して貴重でもないけど、それなりに決定的瞬間を目にしてしまったらしい。

...ご愁傷様。





「よ!振られん坊。」





店番をしていると遠慮のない一言が掛けられる。

声を聞いてすぐに分かったけど、一応目を向けるとやっぱり俺の予想通り腐れ縁のが店先に立って片手をヒラヒラさせている。

昨日の現場に居たのはやっぱりだったらしい。

遠くだったし、俺自身も一応ショックを受けていたからはっきり認識することは出来なかった。でも、俺が見間違えるはずがねぇんだよな。





「うるせぇ。冷やかしなら帰れよ。」





やっぱりそれは慣れるというものではなく、昨日のことはそれなりにショックだったみたい。

そりゃあ、昨日も振られて新記録更新中でも、好きという気持ちをはぐらかされたりしたら、心が痛い。

達也は昔から最後の一押しが足りないというか、変に格好をつけたがるからイイヒトになっちゃうんだねぇ。

あたしとしては、そこが達也のいいところだと思ってるんだけど...





「べっつにぃ。冷やかしってほどでもないんだけどさ。」





そう言いながらは店の中に入ってきて俺の傍までやってきた。

じぃ、と俺の顔を覗きこんでくるから顔を逸らすと少しが笑った感じがした。

そんなの柔らかい空気が傍にあると俺も少しは心が楽になる。

いつも口が悪くて大雑把だけど、そんな不思議なやつ。





「ま、これからも振られ記録を更新してくださいな。」





結構可愛くないこと言いやがるけどな!

でも、俺はたぶん...の気持ちを知っている。




「だから、いつも一言多いって言ってんだよ。いちいち...」



少し膨れっ面になりながら達也がそう言う。

達也が失恋するのは余計な格好をつけるから。そして、もうひとつ。それはたぶんあたしは知ってる。




「はいはぁい。」



そう言いながらが気のない降参ポーズを取る。

こいつはきっと知らない。俺が何で意識してそれなりに真剣に外に目を向けているかを。


「相変わらず可愛くねぇな。」

半眼を向けながら達也はあたしに言う。
達也は知らない。あたしが何でこんな態度を取っているかを。



でも、俺は言わない。


でも、あたしからは言ってやんない。


惚れたもんが負けって言うもんな。


好きになった方が負けだって言うもんね。



この勝負だけは絶対に譲れない!!









桜風
08.8.27


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