再会






店の奥で作業をしていると「こんにちは」と声を掛けられた。視線を向けて彼は眉を上げる。
数年前まで毎週末に客として来店していた人だ。
ただ、いつの間にか見なくなった。
見なくなったと思った頃に親に話してみると、自分が『見なくなった』と感じた数か月前から見なくなったという。
ついでに、挨拶をされていたとか。
平たく言うと、転勤だったそうだ。
ここは東京でもそんなに栄えていない。ベッドタウンというには半端な場所にあり、だから、もう戻ってこないと思っていたのに。

ともかく、「こんにちは」と言葉を返して足を向ける。
「何かお探しですか?」
「いえ。あ、いえじゃない」と答えに迷走した彼女は気を取り直したように深呼吸をひとつして「久々にこの街に帰ってきたから、寄ってみようと思ったんです」と返した。
木村はくすりと笑う。
「お久しぶりですね」
彼女は目を丸くした。
「毎週来てくださっていたお客さんなら覚えていますよ」と木村が返すと「なるほど」と彼女は頷いた。
「切り花を」
「アレンジメントもできますけど?」
「自分で活けるのも楽しいんですよ」
彼女は笑いながら返す。
「花瓶は、そんなに大きくないんですけどね」
「では、花はこちらで選びましょうか?」
「お願いします。流石に自分でというのはハードルが高くて」
「色とかイメージとかありますか? あと、予算」
木村が問うと彼女は少しだけ悩んでイメージを口にする。
それを聞いて彼は手早く花を選ぶ。
「じゃあ、包装は簡単なのにしますね」
花を包み、彼女に渡す。
代金を受け取って「ありがとうございました」とあいさつをしたが、ふと店頭に作り置いているミニブーケに手を伸ばす。
店を後にした彼女に声を掛けて「引っ越し祝いです」とそれを渡した。
彼女は少し驚いたような表情をみせたが「ありがとうございます」と素直に受け取った。
「また、気が向いたら週末に来てください」
「ぜひ」と彼女は笑って再び歩き出した。







桜風
20.4.26


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