| 久しぶりに再会して、そして一方的とも思われるデートを申し込まれ... 何で自分は此処にいるのだろう? は心底不思議だった。 いや、楽しそうだし、宮田に再び会えることは嬉しいのだが。素直に信じてよかったのだろうか。 時計を見ると自分が記憶していた時間は過ぎている。 時間を間違えた。日にちを間違えた。場所を間違えた。 この待ちぼうけにはたくさん原因はありそうだけど、最も考え得る原因は『あの約束はからかわれただけ』だ。 うーん... 高校時代、と言ってもたった数ヶ月机を並べただけの同級生の言葉をこんな簡単に丸呑みにするのはまずかったか。 反省はした。だが、それでも帰ろうと思わなかった自分が不思議だった。 何でだろう? 「さん!」 息を切らせて汗だくで駆けたきたのは、もちろん言いだしっぺの宮田一郎だ。 ああ、良かった。場所も日にちも間違っていなかったんだ。 はそれを思ってほっと息をついた。 「ごめん...」 「大丈夫?」 整わない息で会話をしようとする宮田に首を傾げながらは言う。「とりあえず、呼吸を整えて」と言うに「ごめん」と宮田は謝る。 謝罪から始まるデートかぁ... は何となくそんなことを呆っとしながら思っていた。特に怒っていない。というか、自分の家族が時間にルーズだから時間にルーズであることへの免疫は出来ている。 暫く人の邪魔にならないように道路の端っこで宮田が息を整えるのを待った。 「早いんだね。さすがボクサー。あのちょっとのインターバルで息とか整えなくちゃいけないんだもんね」 それでもこんなに息を整えるのに時間が掛からないなんて思わなかった。 「ごめん」 「よし、決めました」 グッと拳を握ってが言う。 「何を?」 「『ごめん』禁止」 「...は?」 「遅れちゃったものは仕方ない。宮田君のことだからやんごとなき事情に違いないし。だったら、もういいよ。私だって待てなかったら帰ってるし。待てたから待ってたんだし」 「いや、でも。遅刻は遅刻だし。俺が言いだしっぺなのに。ごめ..」 『ん』を言わせてもらえなかった。 が宮田の口を掌で抑えた。 「そうね、うん。『ごめん』1回につき、ジュース1本。OK?」 口をふさがれた宮田は呆然とし、寧ろ、鼻もふさがれているので出来れば早く手を離してほしくて片手を挙げて了承の意思を示した。 「私のおなか、水物でちゃぷちゃぷにしないでね?」 そう言ってが笑う。 「OK。じゃあ、どうしようか」 「ノープラン?んー、どうしようね。あ、植物園とか動物園とか行きたい。歩く系がいい」 意外と体を動かすのが好きなのか... 足が遅いのは知っている。何度も見て感心したものだ。 だが、歩く速度はそこまで遅くなかった...ような気がする。 のリクエストを受けて植物園にした。 動物園は、今の時期は暑いだけだ。動物たちも暑さでだらけていると聞いたことがある。 そういえば、と改めてを見た。 以前再会したときはワンピースで少し大人びて見えたが、今日の服を見るとそこまではない。動きやすそうなパンツだからだろうか... 「なに?」 宮田はそっと盗み見ていたつもりだったがその視線に気づいたが聞く。 「え?」 「んー、気のせいだったかな?」 自意識過剰と思われるのはやっぱり恥ずかしいので気のせいということにしようと思った。 「あ、いや。今日はワンピースじゃないんだって...」 宮田の言葉に目を丸くした。 「宮田君とのデートだから体を動かすかなって思って」 自分が言い出したのだが、相手が『デート』とか言うとなんだか落ち着かない。 「あ、ああ。そうなんだ」と宮田が少し上ずった声で返すと「うん、そうなんだよ」と同じく緊張したような声音で言葉が返ってきた。 植物園についても2人の会話は途切れがちだった。 元々会話が得意ではない宮田だ。相手が話を振ってきてもどうにも上手く話が広がるような返し方が出来ない。 気まずいな、と思っているとが足を止めた。 「あれ」と指をさしたのは売店だ。 「アイス食べよう。ちょっと疲れちゃったし」 宮田の返事を聞かずには売店へと足を向ける。宮田もそれに続いた。 「ストロベリーと..宮田君は?」 「俺はいいよ」 「じゃあ、ストロベリーひとつ」 ストロベリーのソフトクリームを受け取り、売店近くのベンチに腰を下ろした。 「甘いもの、きらい?」 「きらいじゃないな。まあ、普段から食べないから馴染みはあまりないけど、アイスは時々食べてるし」 宮田の言葉に「そっか」と呟く。そういえば、ボクサーは『減量』というものがあると聞く。 自分が時々果敢に挑戦しているダイエットとは別物の大変なものだ。自分の場合は挑戦した結果、挫けても誰にも迷惑はかけない..はず。 だが、ボクサーのそれは違う。いろんな人に迷惑をかけるし、それはクリアしなくてはならないものだ。プロとして。 「...ひとくち、食べる?」 少し遠慮がちに彼女が言う。 宮田は躊躇ったが「いいのか?」と確認した。 「うん」というの返事を聞いて、彼女からソフトクリームを受け取り、ぱくりと食べた。 は目を丸くしている。 ソフトクリーム部分が半分くらいなくなった。 「ちょ、な..!半分?!」 ひとくち。間違いなく『ひとくち』だった。しかし、ひとくちでこれほどまでなくなると誰が予想できたか... 「酷い...」 膨れっ面で宮田を見上げるに宮田は笑いながらアイスを返した。いたずらが成功したことを喜んでいるかのように笑っている。 「久しぶりに食べたよ」 ソフトクリームを受け取ったはちょっと落ち込んでいたが、ふと視線が宮田の口元で止まった。 「無理してたくさん食べるから」と言いながら口元に付いたクリームを指で掬ってその指を舐めた。 「あ、」と宮田が言い、その声で自分のしたことには気づく。 しまった...! 弟もよく口の周りにソースとかクリームとかつけていることがあるのでそんなときは今みたいに指で掬って食べて... 「あ、いや..あの...!」 わたわたと慌てては立ち上がり、その瞬間ポトリと音がした。 「「あ...」」 宮田との声が重なる。 あまりに慌てていたため、自分が何を持っていたか忘れていたのだ。 「あー...」とは落としてしまったソフトクリームを名残惜しげに眺めている。 「ぷっ」と宮田が噴出した。 「何よー!」 「いや、ごめん。相変わらずだな、って。さっきのお詫びもかねて奢るよ。ストロベリーで良い?」 笑いながら宮田が言うものだから、「特盛で!」とは照れ隠しにそういった。 そんなメニューないだろ、と思いながら宮田は片手を挙げて売店に向かう。 「...宮田君でも赤くなるときがあるのね」 先ほどの宮田の表情を思い出し、は可笑しくなって笑った。 |
桜風
10.2.1