| 翌月のシフト票を見ては「わお」と呟く。 本当に復帰したんだ、と。 「さん」と店長に声を掛けられて顔を上げると意味深な笑みを浮かべている彼の顔が目に入る。 「どうしたんですか?」 「いやいや...」 そう返した店長は鼻歌を歌いながらいなくなっていった。 バイトが終わってロッカーに仕舞っている荷物を取り出して「お疲れ」と声をかけては裏口から一旦外に出て店舗に入る。 「まだバイトし足りない?」 先ほど引継ぎをしたばかりのバイト仲間に声を掛けられ、「のん!」と返す。 そしてそのままアイスコーナーに向かっていく。 レジに持ってきたそれを見た彼女は呆れたように肩を竦めてバーコードを読み取る。 支払いを済ませて店を出ると雪が降っていた。 「さっむいワケだわ」 「で、そんな寒い中、さんは何でアイスなんですか」 先に出たのでまだ宮田が居るとは思っていなかったは驚いて振り返る。 「まだ帰ってなかったの?」 「ええ」と頷いた宮田の吐く息は白い。 「んー、ちょっと此処最近元気が出なかったから」 そう言っては袋を破ってアイスを咥える。 「自分へのご褒美的なものですか」 クラスでも女子がそんな話をしているのを耳にしたことがある。そのとき、それは、つまり自分に甘い事に対する言い訳なのではないかと思った。 宮田が聞くと彼女は首を横に振った。 不思議そうに宮田は首を傾げる。 「ま、ちょっと待ってて」 店舗の目の前で立っているのは邪魔なの帰宅しながら話をすることにした。 食べ終わったが「ほら」と宮田に見せたのはアタリの文字。 「アタリ、ですね。さんって結構運が良いですね」 そう返した宮田には苦笑しながら首を横に振った。 「あたし、くじ運は本当に悪いのよね。おみくじとか..席替えでも真ん中の一番前が多かったな。他にも、商店街のくじ引きもだなー。大体、他の人が『アレだけはいやだ』とかいうのを引き当てちゃったりするのよね」 「本当ですか?」 普通は欲しいと思うアイスのアタリ棒が彼女の手にはあると言うのに... 「唯一、これだけ」 そう言って彼女は手にあるアタリ棒を振った。 「昔は、こんなつまんないところで運を使わなくて良いから、もっと嬉しい運の使い方をしたいって思ってたんだけど。付き合いが長くなるとそんなこと思わなくなったし、これで良かったんじゃないかなって思い始めたのよね」 「良かったんですか?」 「うん。良かった。変に運が良かったらそういうのに頼っちゃいそうじゃない?どうしても欲しいものは努力が必要って最初からわかるし、安易な期待を抱かずに済むから最初からシンプルでいいのよ。それに、アイスは好きだしね」 が言い終わると宮田がプッと噴出した。 「なによ」と眉間に皺を寄せてが宮田を見上げる。 「さんって、かなり変な人だけど。基本は竹を割ったようなわかりやすい性格ですよね」 「褒めてよー」 が訴えると「褒めてますよ」と宮田が返す。 「俺、嫌いじゃないですよ。そういうの」 「そう?」 「ええ。おみくじは、それが本当に良いか分からないワケのわからないことが書いてあるし、席替えにしても真ん中の一番前って意外と教師の盲点だったりしませんか?商店街のくじなんて外れても何かしら貰えます」 宮田が言いたいことが分からないは宮田が何かを言うたびに首を傾げている。 「それ」とが持っているアタリ棒を宮田が指差した。 「それは『アタリ』じゃないですか。アタリかハズレかの2つにひとつで、要は勝ちか負けかの2つにひとつと同じで『アタリ』は『勝ち』のようなものでしょう?」 ん?と思いながら思わず頷いたに宮田は続けた。 「だからさんは、普段は努力して、たまに目に見える形で『勝ち』を手にしてるんですよ」 「つまり、あたしって超凄いってこと?」 「俺、そこまでは言ってません」 冷静な宮田の突っ込みには笑う。 そして、自分が持っているアタリ棒を空に向かって掲げた。 「そっか。これは、『アタリ』なんだ」 ただの、もう1本もらえる記号ではないのだ。 そう思うと嬉しさが倍増した。頑張ってるね、と認められているみたいで。 「宮田くん、たまには良いコト言うね」 が言うと 「ホント、さんはたまに失礼ですよね」 と半眼になって返される。 宮田の反応に笑ったは「要る?」とアタリ棒を彼に向かって差し出す。 「要りません。人の勝利にあやかろうなんて思いませんから。勝利は自分で手にします」 「かっこいいコト言うじゃない。うっかり惚れちゃいそう」 がからかうように言うと 「お好きにどうぞ」 と宮田は苦笑した。 宮田が要らないといったアタリ棒は帰り道にあったゴミ箱にひょいと投げ、 「じゃ、またね」 とは軽く手を上げて挨拶をし 「ええ、お疲れ様でした」 と宮田も軽く手を上げてそれぞれの帰るべき方角へ足を向けた。 |
桜風
11.8.27
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