縁は異なもの 1





商店街の入り口で膝に手を置いて腰を折って息を整えている青年が居た。彼はずっと地面を見ている。とりあえず今は息が上がっているし、疲れているので顔を上げられない。

「なんや、もうバテたんか。もっと根性みせたれや」

その少し後ろにはめがねをかけた壮年の男が少し呆れた様子で彼に声をかけていた。

「柳岡はん、鬼や...」

「何言うてんのや、千堂。もっともっと練習せなあかん」

勘弁してくれ、と思いながら少し顔を上げた。

ふと、和服の女性が目に入った。後姿だが、思わず駆け出していた。

名誉のために言っておくが、突然追いかけてしまいたい衝動に駆られるほど和服の女性が大好きと言うわけではない。

家に帰れば年代こそ違うが、和服の女性がいるので珍しいものでもないし。

だが、千堂は駆け出していた。

!」

千堂の言葉に反応してか、和服の女性は振り返った。

そして、猛然と駆けてきている千堂を目にして一歩後ずさる。

「...千堂君?!」

とても健全な格好をしている彼を見るのは初めてだ。

だから、ちょっと自信ないが、でも面影は彼だし...

「何や、帰って来とったんか!?それやったら連絡してくれてもええやないか」

千堂がそういうとは困ったように笑う。

「いや、今でも家は東京。今日は、ちょっと用事でこっちに来たの」

「まだ東京か。用事って何や?」

「ん?あ、えーと...」とが答えあぐねていると「さん?」との少し前を歩いていた年配の女性が少し鋭い声で彼女を呼んだ。

「はい!」とは返事をして「ごめん、急ぐから」と言っての名を呼んだ女性の元へと急ぐ。

女性は千堂に会釈をしてそしてが追いついたのを確認し、また歩き出す。

「...何や?」

首を傾げていると「元気やなぁ」と背後から声をかけられて千堂は恐る恐る振り返った。

「ほな、もうちょっと走って帰ろうか」

千堂はがっくりとうな垂れたが、それに対して抗議の言葉は上げなかった。

上げなかった、というか上げ忘れていた。

何せ、先ほど再開したの事が気になってしょうがなかったから。



と奇跡の再会を果たしたものの彼女が今『東京』に住んでいること意外全く情報がない千堂はなんとも歯がゆい気持ちでそのまま数日を過ごした。

ジムでの練習を終えて帰ってきた千堂に祖母がほくそ笑む。

「何や、ばあちゃん」

「ほら、手紙が来てたで」

「...手紙?」

「恋文ちゃうか?」

今時『恋文』って...

そう思ったが祖母の年代的には『恋文』だったのかもしれない。

「んなワケないわ。応援してくれてる人からの手紙はジムに届くようになってるし」

それがファンのマナーだ。偶に、マナー違反をするものはいるが、それはこちらが反応を示すと調子に乗る可能性があるから無視しろと柳岡に言われたことがある。

今のところ、そういうマナー違反のファンに遭遇したことはない。

子供たちにマナーといっても仕方ないので近所のがきんちょたちはカウントしない。

「せやから、『恋文』や。ファンちゃう、いうことやろ?」

そうかなぁ、と思いながら千堂は祖母から渡された手紙を持って自室へと向かった。

リターンアドレスを見て目を丸くする。

』と書いてある。

封筒を開けると季節の挨拶の後に、先日の再会に驚いたこと。千堂は家が商店をしているから住所が変わっていないと思ってとりあえず自分の住所を知らせるために実家の住所に手紙を出した、ということが丁寧な字で書いてある。

「懐かしいなぁ...」

この丁寧な、少し几帳面な字。

この字にはとてもお世話になった過去を思い出して千堂は苦笑した。









桜風
10.4.24


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