縁は異なもの 2





千堂とは中学3年のときに初めて同じクラスになった。



その当時既に千堂はとてもやんちゃな生徒として学校中にその名を轟かせていた。

そして、は物静かな、読書好きの委員長だった。

委員長と言っても、それは面倒ごとを押し付けられた印象がある。

はクラスの女子に馴染めていなかった。原因は、きっと言葉だ。

彼女は所謂標準語を話す。

こちらに暮らしているのに頑なに標準語を話す彼女はお高く留まっているという印象があったようだ。

実際、千堂は彼女と話をしていても何だかしっくり来なかった。

「千堂君。宿題のプリント...」

「んなもん、やってへんわ」

だろうなぁ、と周囲は納得する。

彼女が押し付けられたその最たるものは千堂との会話だった。会話と言うか、彼の嫌がる宿題の催促をすること。それは皆がしたがらない。

委員長になればそれをしなくてはならない。だから、面倒ごとだし、誰もしたがらなかった。

だって千堂の噂は聞いたことがある。

だが、まあ、仕方ない。

「じゃあ、放課後までに出してね」

はそう言って自分の席に戻り、またいつものように本を開く。

『根暗』と誰かが呟き、その声が聞こえた人たちはクスクスと笑っている。

の標準語は好きではないが、こんなクラスメイトたちの反応も好きじゃなかった。

だから、1度だけ気まぐれを起こした。



放課後、千堂はに声をかけた。

「できた?」

本から顔を上げて彼女は言う。

「いや、無理や。全くわからへん」

「そか」とは言う。

諦めてくれたか、と千堂はほっとしたが、「じゃあ、一緒にやってみようか」と予想だにしなかった言葉が返ってきた。

「は?!」

「だから、一緒に問題解こうよ。分からないんだったら分かるまで付き合うし」

いやいや、諦めてほしい。此処は諦めるところだ。担任に事情を説明すれば仕方ない、と思ってくれるに違いない。

だが、は鞄に仕舞ってい教科書を取り出して開く。

「どこが分からない?」

そもそもやる気がなかったのでどこが分からないかすら分からない。

たぶん、全部だが...

気まぐれついでに千堂は仕方なくに付き合うことにした。


「綺麗な字ぃ、書くなぁ」

ポソリと千堂が言う。は態々ノートに書いて説明をしてくれているのだ。

「ん?」

「ばあちゃんが書く字に似てるわ」

「ホント?」とは嬉しそうに笑う。

『ばあちゃんの書く字に似てる』と言われて何故嬉しそうにするのだろう。

不思議に思いながらも、千堂は苦笑した。

「ワイは、このとおりやからなぁ」

「練習、練習」とは笑う。

は、何で東京弁や?」

『東京弁』という言葉に馴染みがなかったはきょとんとした。やがて『東京弁=標準語』ということに思い至り「ああ」と納得する。

「元々東京だったから。小学校5年のときに引っ越してきたの。だから、東京歴の方が長いんだ」

小学校が違ったのでそれは知らなかった。

「何でこっちの言葉、使わんの?」

千堂の言葉にまたは苦笑する。

「だって、イヤじゃない?根っからの関西..大阪の人はよその地域の人が使う関西弁って違和感あるでしょ?」

まあ、偶にある。

「だから、かな?やっぱり自分の地方の言葉が何か変なイントネーションだったりアクセントだったりでしゃべられたらイヤなんじゃないかって。どんなに頑張ってもわたしはたぶん『真似』から卒業できないだろうから」

つまり、相手が不快に思うかもしれないから所謂関西弁を使わない、と。

「それ、逆効果や...」

千堂は呆れた表情を浮かべた。

は首を傾げた。

「こっちの人間にとってみたら東京弁は、あんまり好かんわ。ジブン、友達いてないやろ」

「まあ、うん。中々難しいねぇ」と落ち込みながら言う。

「しゃーない!」と千堂がぽんと膝を打った。

「ワイがセンセイやったるわ」

「は?!」

は目を丸くした。

普段彼女は中々表情を変えない。変える相手が居ないから当然だ。

千堂は笑って「覚悟するんやでー」とに言い放った。









桜風
10.5.1


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