縁は異なもの 3





の手紙を見ても電話番号が書いていない。

住所だけ分かっても、というのが正直なところだった。

「まあ、ええわ」

東京には知り合いがいる。その知り合いに住所を聞けば何とかなるだろう。

とりあえず、その手紙は失くさないように殆ど使っていない机の引き出しの中に仕舞いこんだ。


東京にはそうちょくちょく行くことはないが、それでも回数的には多い方だと思う。

自分の試合がなくても行くし、同じ階級の試合がなくてもこれまた行く。

お世話になるジムには結構面倒見の良い人がいるのでその人に聞けば安心だ。

そう思っていると、何となく気になってふらりと東京に行くことにした。

また帰ってきたときにトレーナーの柳岡に怒られてド突かれるのだろうが..まあ、慣れたかも。

そして東京に着き、ジムに向かった。

訪ねるとちょうどプロの面子がそろっていた。

「幕ノ内」と声をかけると彼は目を丸くして驚いていた。

「なあ、この住所ってどこや?」

「え?えーと...すみません、僕にはちょっと分かりません。木村さんのほうが地理には詳しいと思います。配達をされているみたいですから」

なるほど、と思ってジムの中の木村を探す。

「あ、木村さん」

「んー?あ、千堂。また来たのかよ」

木村は千堂を見て苦笑した。

「あとで、此処で練習させてください。それよりも、此処の住所知ってますか?」

「...お前、平仮名だらけじゃねぇかよ」

呆れたように木村が呟く。

から届いた手紙の封筒を持ってきても良いのだが、何となく住所をメモ帳に写して持ってきた。

「んー、と。ああ、分かるけど、知り合いでもいるのか?」

こんな住宅街に用事があるなんて珍しい。まずは、観光ではない。

「こっから近いですか?」

「いーや、結構距離あるな。電車も乗り継ぎがあるし...知り合いの家なら電話して迎えに来てもらったほうが良いぞ。住宅街は一度迷うと中々抜け出せないしなー」

と木村が言う。

「なんなら明日でよければ連れてってやるぞ?」という木村の有難い申し出には「や、ええですわ。ありがとうございます」と言って断った。

木村に連れて行ってもらっても良いのだが、その先。に会うところを見られるのはちょっと気恥ずかしいというか...とにかくのことは内緒にしたいのだ。


しかし、どうしよう...

そもそもは何で手紙の中で電話番号を書いてくれなかったのか。

そこが気になって仕方ない。

リターンアドレスは手紙を出すときの基本で渋々書いたのかもしれない。

もしかしたら、この住所も本当の彼女の住所ではないのかもしれない。

そう思い始めると、どうしてもこの住所に是が非でも行きたいという気持ちは薄れ、寧ろ二の足を踏んでしまい、そのときは大阪に帰ることにした。

帰れば案の定柳岡に怒られて練習がきつくなる。

でも、この方が余計なことを考えなくて良いかも...

千堂はそう思いながらキツイ練習に没頭した。


「最近どないしたんや...」

さすがに柳岡は心配になって声をかけた。こんなに文句ひとつ言わない千堂は珍しい。何か妙なものでも食べたのか?

千堂は意を決して柳岡に相談した。

柳岡は呆れた表情を浮かべた。

「なら、お前も手紙を出せばええことやろ」

...盲点。

「せやな」

「何でそんなことを気が付かんかったんか...さっぱりや」

「おおきに!」

そう言って千堂は練習の途中だというのに帰っていった。

「こら!千堂!!まだ練習は終わってへん!!」

「最近めいっぱい練習しやろ!!」

くそー...アドバイスするタイミング間違えた。

柳岡はそう呟いて舌打ちをする。

せっかくひたむきに文句もたれずに練習をしていたのだからもうちょっと続けさせればよかった。









桜風
10.5.8


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