縁は異なもの 8





からの手紙は思ったとおり電話があった2日後に届いた。

封をあけて中身を見ると、また大阪に来る予定があるという。そして、ちゃんと電話番号も書いてあった。

しかし、再び大阪に来るのか。

しかも、10月の上旬。

それなら、少しくらい時間は取れるだろう。

いい時期だ、と思いながらその手紙を机の中にしまった。




10月の上旬にから電話があり、千堂は彼女と会うことを約束した。

そして、その数日後には大阪にやって来た。

ただ、は用事があって少ししか時間が取れないとのこと。別にそれでも全く不都合がないので千堂は特に気にせずに了承して待ち合わせ場所を決めた。


ぽつんと佇んで千堂はの到着を待った。

何となく、彼女と一緒に過ごすというのが物凄く昔のような気がして不思議だった。




自分が関西弁を教える代わりにが勉強を教えてくれる。

有難迷惑な交換条件の下に千堂は、殆ど毎日放課後に付き合う羽目になった。

まあ、言いだしっぺは自分だし、とある種諦めていた。

千堂がいつもつるんでいた連中も面白がって放課後残ってに関西弁を教えて勉強を教わる千堂をからかう日々が続いた。

そんな中、が放課後教師に呼び出されたから、とその日の勉強会はなくなった。

仲間たちは「良かったな」と口々に言うが、そうでもなかったと千堂は思っていた。

その呼び出しの理由に何となく心当たりがあったのだ。

翌日、千堂はに声をかけた。

昨日の呼び出しに理由についてだ。

は曖昧に笑って「なんでもない」と言ったが、そんなはずがない。

しかし、彼女はその日も変わらず放課後の勉強会を開いた。

「ワイらと付き合うな、いう話やったんやろ?」

千堂がポツリと呟く。

千堂をからかっていた仲間たちが口を噤んだ。

教室の中がシーンと静まり返る。

「...まあ、そんなとこ。ほら、千堂君。そこ、足し算が間違ってる」

なんでもない風を装っているが、は正直困っているのだろう。

「ワイは、別に勉強会なくなってもええで?」

「わたしが困る」

間髪入れずにが返した。

「やっと関西弁のコツが掴めてきたところやのに」

まだイントネーションが怪しい感じではあるが、以前のように関西弁を使うことに対しての抵抗感はなくなった様子だ。

こう毎日賑やかに言葉を聞いていればそれもそうだろう。馴染むとはこういうことだ、きっと。

しかし、が自分たちに気を遣っているのも確かなことだ。

だから千堂は少し悩んだ。

が、

「まだまだ下手くそやなぁ」

教師の思い通りになるのも癪で、何よりが良いというのなら、とこのままの関係を続けることを選んだ。

千堂の選択に、友人たちも賛成のようで、口には出さなかったが、その空気が伝わってきた。


季節は移ろい秋になった。

そろそろ受験校を決めるようにせっつかれ始める時期だ。

はどうするん?」

何とか問題を解くのが苦ではなくなった千堂が、問題文を読みながら目の前のセンセイに聞いた。

「んー、東京の学校」

「ほー、東京か。...東京?!」

ガバッと顔を上げて千堂が確認するとは頷いた。

「何でや」

「元々大阪に来たのも、お父さんの転勤についてきたの。その転勤についてきたのもお父さんの『もう転勤はない。大阪が終の棲家だ!』だったのよ。けど、どうも雲行きが怪しくて...
結局12月にお父さんは一足先に東京へ行くことになったの。で、その後はお父さんがどんなに転勤を繰り返しても東京から出ないってことになって。親戚が関東一円にいるから何かあっても親戚の傍が良いでしょう、ってなって」

千堂をからかいに来ていた仲間たちは口々に残念だと言う。

しかし、千堂は「さよけ」と言っただけだった。

目の前の問題を解き終わり、伸びをする。

「せやけど、まあ。良かったんちゃう?」

千堂の言葉にも含めて皆が首を傾げた。

「ほら、こっちの学校やったらワイらとつるんでたっていうのどうしても周りに知られるで。ウチの先公たちもワイらとの付き合いはもうやめぇ言うてたんやろ?たぶん、高校受験が色々と面倒なことになる思っとったからや。
東京やったら、ワイらとつるんでたなんて知ってるもん自体おらへんし。それに、ワイらとつるむ以外はは良い生徒やから内申書いうんか?アレも良いように書いてくれるんやないか?」

千堂の言葉に仲間たちは「なるほど...」と唸ったがだけひとり困った顔をして寂しそうに笑っていた。



「千堂君!」

昔を思い出していたら時間はあっという間に進んでしまったらしく、声をかけられて慌てて千堂は振り返った。

目の前に居るのはその思い出から6年後ので、今日も着物を着ていた。









桜風
10.6.26


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