| 自分の目の前に現れたに千堂は暫しぼうっとした。 「千堂君?」 「あ、ああ。何で着物や?」 一番の疑問を口にした。 「え?ああ。お華をやってるのよ。それで、今回もこっちに来たのがお姉さんの個展があって、そのお手伝い」 「姉ちゃんなんて居ったか?」 「せやから、『お華の教室の姉弟子さん』ってこと」 千堂は少し目を瞠った。 「まだ話せたんやな」と言おうとしてやめた。 それは逆にに失礼なことに思えたから。 とりあえず場所を移そうと話してその場を離れる。 しかし、千堂と歩くとどうも注目されるようだ。最初は自分の着物姿が珍しいのかと思った。この年代で着物で街中を歩くのは中々ない。 だが、そうではないようなのだ。 知らない人が千堂に声をかけてる。これだけの人が千堂の知り合いと言うのは考えにくい。何より『ロッキー』と呼ばれている。 どういうことだ? あだ名にしても、『千堂武士』の何処を取ってそのあだ名になるのだろう。名前に由来したあだ名ではないということだろうか。 千堂が入った喫茶店に続いて入る。 ウェイトレスがやってきて注文をとる。 「ワイはレイコ。ほいで、は...」 「同じく」とが答えると「2つや」と言うと「畏まりました」とウェイトレスは恭しく礼をして千堂たちのテーブルから去った。 「ねえ、千堂君」 「何や?」 「『ロッキー』って、何?」 此処の辿り着くまでずっと不思議で仕方がなかったその単語について聞いたみた。 『ロッキー』と言えば、山脈か、ボクシング映画の主人公だ。 それ以外に何かあったっけ?? 「ああ、まあ。あだ名やな」 「千堂君の?」 「せや」と頷く。 ...あだ名、なのは確からしいが。 ウェイトレスが注文したレイコことアイスコーヒーを持ってきた。 それぞれの前にグラスを置いて彼女は意を決したように千堂に「応援してます」と言って足早にその場を去る。 「応援されてるみたいよ?」 「人気もんやからなぁ」 目の前のの頭の上に『?』がたくさん並んでいる。その様子がおかしくて千堂は噴出した。 「どうしたの?」 また『?』が増えた。 「ワイな、プロやねん」 答えを教えてあげることにした。 「『プロ』?何の?」 「何やと思う?当ててみ?」 からかうように言う千堂には唸って、「ボクシング?」と言った。 「何で分かったんや?!はいつの間にかエスパーになっとったんか?!」 本気で驚いている目の前の同級生には苦笑した。 「『ロッキー』って言ったら映画であるでしょ?」 千堂は胸をなでおろす。エスパーではなかったようだ。 「見たことあるんか?」 「映画?ないよ。タイトルとボクシングが主題ってのと、音楽だけ」 そう言って曲を口ずさむ。 確かに、それが有名だ。 「まあ、そういうことや」 そう言ってストローに口をつけた。 「ボクシング、興味あるか?」 「ゼロじゃないけど、どうだろうね。見たことないし」 が言うと千堂は「そか」と言ってハタと閃いた。 「せやったら、見てみるか?」 「ボクシング?まあ、見られるものなら...うん」 歯切れ悪くが言う。まあ、馴染みがないものでしかも格闘技ともなると歯切れは悪くなるものだろう。 「ほな、今度チケット送るわ」 「千堂君の試合?」 の言葉に千堂は頷く。 「11月にワイの試合があるんや。東京で」 「東京?!こっちじゃないんだ?」 「まあ、そこは色々と事情があんねん。1枚でええか?」 一瞬木村の顔が浮かんだが、彼はボクシング関係者だし、チケットは何とかして手に入るだろう。 「うん、1枚でええよ。あとで払うわ」 「奢ったるわ、それくらい」 千堂の言葉に「おおきに」と返す。 そして、やっとも気が付いた。 「やっぱ、センセイの前だとこうなるんやね」 『こう』とは関西弁で話すということだ。 千堂は苦笑して、「まあ、本場やからな」と返す。 そのまま近況を話していたが途中で「あ!」とが声を上げた。 「何や?!」 「時間!まずいわ...」 「急がなあかんか?!」 「受付、ちょっとだけ抜けさせてもらってきたから。怒られる...」 「ほ、ほな急がんと」 千堂も慌て始めた。 そのままバタバタと別れる。 時計を見たらそれでもと話をしていたのはあまり短くない時間だった。 「...何や」 この時計、きっと壊れているに違いない。 少し不貞腐れながら千堂はトボトボと帰っていった。 |
桜風
10.7.3
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