縁は異なもの 10





千堂から送られてきたチケットを見ては呆然とした。

『タイトルマッチ』と書いてある。

『タイトルマッチ』と言うからには何かしらのタイトルが賭けてあるはずだ。

そして、何よりも驚いたのは千堂が『チャンピオン』だということだ。

この間会ったときにもそんな話しなかったのに...

千堂は、昔から喧嘩は強かった。

中学生でありながら高校生にも引けを取らなかった、と聞く。

そういえば、とは思った。

千堂がやんちゃだと言う話は色々と聞いたが、本人がそういうことをしている姿をは見たことない。宿題をしなかったり授業をサボったり教師をにらんだりというのはあったが...

彼と一緒につるんでいた仲間たちも強面だったりしたが、それでも結構気の良い人たちばかりだった。

だから、彼らに対する噂が何だか真実味のないものに思えたのだ。

言葉の壁、というほどの大げさなものではないにしてもが困っているのを放っておけずに教えてくれる親切さもあるのだ。


まあ、とにかく。今回は入門編と言うことで、場の空気に慣れるように心がけよう。

そんなことを思っては人生初のボクシング観戦に臨む事にした。




「ちわー!」

...。

少し待ってみたが、が出てこない。

どうしたのだろう。休みか?だったら別の人が出てくるはずだ。

「ちわー!」ともう一度、少し大きめの声で言った。

さん!」と奥から叱る声が聞こえて「は、はい!」と慌ててが出てくる。

勢いついて走ってきた上、足袋を履いている。急には止まれずは木村に突っ込んだ。

木村は驚いて彼女をを支える。

「大丈夫?」

「面目ないデス...」

しゅん、とうな垂れているに木村は首を傾げた。

「何かあった?先生に怒られた、とか」

今しがた怒られたばかりだが、そうなる前にもう一度怒られて落ち込んでいたのかもしれない。

「いいえ。もう慣れっこです」

慣れるくらい怒られているんだ...

少し意外に思いながら、じゃあ何だろうと木村は不思議に思う。

注文書と届けられている花を確認しながらは「木村さん」と名前を呼んだ。

「ん?え、間違ってる?!」

「いいえ。いつも新鮮なお花、ありがとうございます」

自分のミスを指摘されるわけではないらしい。

ほっと胸を撫で下ろして「で、何?」と木村が話を促した。

「ボクシングって、ああなんですか?」

『ああ』とは何を指しているのだろう。

「『ああ』って?」

「見に行ったんです」

「へー!?ホールまで?」と聞くとコクリと頷く。

「どうだった?」

「めっちゃ怖かった。というか、ビックリした。あんなん見たことない」

また関西弁が零れている。

「どの試合?」

そう聞きながらも、最近の試合と言ったら...と思い出していた。

「『LALLAPALLOOZA』ってのです」

木村はちょっと言葉に詰まった。

ボクシング観戦初心者でアレは、確かに刺激が強いと言うか勧めづらい。というか、誰が勧めた?!いやいや、チケットよく取れたよね。

そんなことを思いながら「チケット、よく取れたね」と言ってみた。

「千堂君が送ってくれたんです」

「へー、千堂く..千堂君?!千堂ってあの千堂?!なにわ拳闘会の?というか、この間の試合の??」

木村が驚いているとはコクリと頷く。

そうか、大阪に5年間居たと言っていた。だから、そのときに千堂と知り合いになったのか。同じ年のはずだから、同級生とか...

しかし、まあ。千堂も配慮があってしかるべきだと思うのだが...

自分たちのボクシングスタイル、ちゃんと考慮しろ。

「あー、アレはどっちかって言うと特別だなぁ...」

あそこまで正面切っての打ち合いはそうそうない。ボクシングファンなら喜ぶ試合だろうが、素人はどうにも...

そう思いながら木村はにボクシングについて解説をしようとするが「さん!」と鋭い声が届いて思わず肩を竦める。

「今度時間ある?」

「へ?」

「ボクシング、知りたいんでしょ?良かったら付き合うよ?」

は少し迷ったようだが、コクリと頷いた。

「木村さんの家の電話番号は、お店と同じですよね?」

「うん」

「じゃあ、今晩お電話させていただいても良いですか?」

「わかった」

そう言って木村はそそくさと帰り、は大人しく先生に怒られた。









桜風
10.7.10


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