縁は異なもの 11





冬休み前にレポートの締切りを設定する講師は鬼だと心から思った。

「クリスマス、すっきりして楽しみたいだろう?」

生徒たちが頭を抱えているのを見てその講師は笑った。

締切りは12月17日だった。

も頭を抱えた生徒の一人で、ただ彼女はクリスマスどうこうではなく、申し訳ないという思いに駆られるからだ。


ボクシング講座をしてくれると木村が申し出てくれたのはその前日。

申し出てくれた日は連絡を取る余裕もなく、翌日の今日、連絡をしようと思っていた矢先のこれだった。

そうは言っても、この授業を取ったときにレポートの提出を求めることがあるから、11月中にはテーマを決めていた方が良いぞと言われていたため、そのとおりにしていたは周囲に比べれば多少は余裕があるはずだ。

家に帰って木村に電話をする。

ちょうどジムに出るところだったと言われ、謝罪すると彼は笑いながら「別に良いって」と言う。

が今日のことを話すと「大学生ってのもやっぱり大変だよなー」と理解を示してくれて、そのレポート締切日以降にお願いすることになった。

気になることは気になるが、単位は落とせない。


死ぬ気でレポートを完了させた。

準備が出来ていた自分でこうなのだから、全く準備をしていないと嘆いたいた友人たちはどうだろう...

すこし同情はしたが、まあ、それはそれ。

は木村に電話をして都合のあう日を聞き、その日にお願いをすることにした。


木村が待ち合わせ場所に指定したのは近場で一番大きな図書館だった。

何故図書館なのだろう、と思って聞いてみると

「今はまだ試合見たくないでしょ?」

と言われた。

とても配慮のある人だと思った。

つまり、実戦を見ることが出来ないのなら、座学ということらしい。

図書館でボクシング入門の本を見ながら教えてくれるとか。

木村が少し大きめのバッグを持っていることも気になったが、とりあえず図書館においてある『入門書』を見ながらの解説を受ける。

そもそも、ルールを知らないからそこからのスタートだ。

の大学が終わってからの待ち合わせだったので、図書館にいられる時間は少なかったが、とりあえず『ボクシングのいろは』は何となく分かった気がする。

「じゃあ、晩飯食いながらもうちょっと。...大丈夫?」

元々夕飯をついでに、って話だったので親にはそう言っているので困らない。

は頷き、2人はこの図書館の近くのファミレスに足を運んだ。

ファミレスなら少し賑やかにしても大丈夫だ。何せ、周りが賑やかなのだから。

学校が終わってずっとここにいたような女子高生たちの笑い声が響いている。

数年前の自分もああだったか?と少し疑問に思いながら木村と向かい合わせに座った。

注文したものがテーブルの上に並ぶ中、木村は自分が持ってきたバッグをドン、と置いた。

「それ、何ですか?重そうで気になっていたんですけど...」

「んー?バックナンバー」

そういいながら取り出したのはボクシング雑誌だった。

つい最近、といっても数ヶ月前なのだがも購入した雑誌がどさっと出てきた。

「まあ、とりあえず、ルールとかボクシングスタイルとかそういう話はしたから」

そう言って雑誌を数冊手にとって「これこれ」との前に出す。

でかでかと千堂の写真が紙面を飾っている。

「千堂君?!」

「ほら、千堂ってチャンプだっただろう?こういう特集とか結構あったんだよ」

知らなかった。

あの千堂が、こんなに堂々と雑誌で特集を組まれているとは...

不思議そうに雑誌を眺めるを見て木村は苦笑した。この表情を見たら彼女が千堂とどれだけ仲が良かったが分かる気がする。

しかし、まあ。雑誌は貸すとして、と思いながら木村はその雑誌を使いながら今度は当時の試合の話をした。

はそれを聞きながらノートに書き留めている。

律儀と言うか、几帳面と言うか...

あまりこういう性格の子と関わることが多くないので木村は珍しいものを見ているような気になってきた。

ちゃんって読みやすい字を書くね」

ノートを覗き込みながら木村が言う。

「そうですか?」

「うん。クセがないって言うわけじゃないけど、ぱっと見て読める感じ」

「千堂君には『几帳面な字やなぁ』って言われてましたよ」

苦笑していうに、ああなるほど。そうとも見えるなぁと木村は千堂の評価に納得した。

遅くまではさすがにまずいだろうと思い、木村は早々に引き上げることにした。

何せ、お華を習っているくらいなのだからきっとはお嬢様なのだろうから。









桜風
10.7.24


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