縁は異なもの 12





はぁ...

千堂は溜息をついた。

年末辺りから1日に何度も吐いている。

「千堂、ええかげんにせえ!」

「あ〜?柳岡はん。柳岡はんは、元気でええなぁ...」

怒鳴られても何か変わる様子がなく、そんな千堂に周囲は首を傾げるばかりだった。


「どう思われますか?」

どうにも千堂の様子がおかしい。それがひと月以上も続いているものだから柳岡もとうとう千堂の保護者..と言っても彼は既に成人を迎えているから保護者と言うにはちょっと違和感があるが、それでも彼が生まれてから今までずっと一緒だった人物に相談に行った。

彼女は笑う。

「失恋ちゃうか?」

笑い事なのだろうか...

「失恋、ですか?千堂が、誰かと付きおうてるって話聞いたことないですが...」

「まあ、聞いたことないなぁ」

...。

柳岡は現在相談をしている相手の千堂の祖母をじっと見た。

「まあ、落ち込み続けるのもえらいから、そろそろ戻ってくるんちゃいますの?」

だと良いのだが...

柳岡は彼女に礼を言ってその日は引き下がった。



2月に入り、それでも千堂は落ち込んだままだ。

いい加減、ジムの士気にも関わるので落ち込んだままだったら出入りを禁止してみようかと思った矢先、「こんにちはー」とおっかなびっくりでジムに入ってきた人物が居た。

誰かの知り合いかと思ったが、今のところジムにいる人物の知り合いではないようだ。皆が興味津々に彼女を遠くから眺めている。

「手ぇ止めるな!」

周囲にそう言って柳岡は今しがたジムに入ってきた人物に声をかけることにした。

「どないしはったんですか?ジムに知り合いがいてますか?」

「千堂君が、ここに所属しているって伺ったんですけど...」

窺うような目で柳岡を見上げて言う彼女は『』と名乗った。

彼女は中学時代に千堂とクラスメイトになったことがあると言う。しかし、彼女の話す言葉のイントネーションは関東のものだ。千堂の同級生であったと言うならこちらのイントネーションで話すのではないだろうかと思って首を傾げた。

有名人になった途端知り合いが増えると言うことはあるが、千堂の場合でそれをしようと思ったらそれはそれで勇気が要るだろうから、とりあえず千堂の客人としての対応を行うことにした。

「今あいつロードワークに出てますのや。もう暫くしたら帰ってくると思うんですけど、どうします?」

は「うーん」と唸って「外で待っていても良いですか?」と言う。

「外は寒いでしょ。中で待ってたらええですよ」

「でも、お邪魔になったらあかんと思いますし」

「邪魔やない。寧ろ、こんなべっぴんさんがジムの中にいるほうが華があってええですよ。まあ、此処に座ってあいつが戻ってくるのを待っとってください」

そう強く勧められたらジムの外で待つことは出来ない。

ちょっと怖いと思っていたので外で待つと言ったのだが...まあ、仕方ない。

木村のボクシング講座を受けて以来、ゆっくり勉強をした。

教室に配達で来た木村はボクシングのビデオを貸してくれたりしたし、気になることがあったら電話で聞いたりもした。

もう千堂の試合を見てもビビらない自信くらいはついた。

...たぶん、という言葉がつくが。

そして、大学の後期のテストも終了した今、大阪に遊びに来たのだ。

というか、アレ以来千堂と連絡も取っていなかったので思い切って足を運んでみることにしたのだ。

しかし、今のところ空振り。

だが、外出しているだけなら戻ってくるということだ。

日帰りの予定なのでそう時間はないが、少し話をする時間くらいはあるだろう。


暫くして「ただいまー」と気だるそうな声で千堂が帰ってきた。

「おう、千堂。お客さんが来てるで?」

「客ぅ〜?」

柳岡に声をかけられて指されている方向を見て千堂の動きは止まった。

...?」

ポツリと呟いた千堂の声は柳岡の耳にもかろうじて届き、とりあえず彼女が千堂の知り合いであることは確かだと安心したのだった。









桜風
10.7.31


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