縁は異なもの 14





!」

近所での背中を捉えることが出来た。

千堂が声を張って名前を呼ぶとは慌てて振り返って、駆け出した。

しかし、あっという間に千堂が追いつく。

「くっそー、陸上部の威信が...」

が心底悔しそうに呟いた。

「何や、。高校は陸上部か」

「そうよ」

先ほど見事な啖呵を切った後だから、どうにも居心地が悪い。

「何の選手や」

「短距離」

千堂は、ぱかーと口をあけた。

「んなもん、ワイと走ったら体力足りひんわ」

「千堂君は現役体力バカなだけでしょ!それに、こっちはブーツだもん」

何か失礼なことを言われた気もしたが、それはそれで事実のような気もして突っ込むのはやめた。

「なあ...」千堂が良いにくそうに口を開く。

「すまん」

「何が」

「あー、えー...八つ当たり、してもうた..こと...か?」

「何で疑問系よ!?というか、何でさっきいきなり木村さん?」

に聞かれて千堂は暫くだんまりを決め込んで逃げようと思ったが、はそれ許さず千堂が話すまで自分も黙ることに決めたようでじっと見ている。

もちろん、根負けしたのは千堂だった。



千堂は年末東京に行ったのだ。

何となく、に会いに。

東京に着いて、とりあえず今東京にいると言って驚かせようと思って自宅に電話をしたら学校だと言われた。

そうか、大学生かと何となく寂しさと言うかちょっと心に隙間風を感じながらの大学に向かってみた。

しかし、その途中でを見つけた。

後ろからこっそり近付いて驚かせようと思っていたら、が少し駆ける。

何だろうと思ったらその先には男が居た。自分の知っている人物だったことに二重の衝撃を受けた。木村だ。

木村と待ち合わせをしていたらしくそのまま2人は仲良く並んで歩き始めた。

暫く呆然として、そのまますごすごと大阪に帰った。

何となくモヤモヤしながらその後を過ごし、本日に至るというわけだ。


モヤモヤしたなどのくだりは省略して千堂が素直に吐くとは肩を竦めた。「声をかけてくれても良かったのに」と言う。

かけられなかったのだと察してほしい。

「その日に、木村さんにボクシングのいろはを教えてもらったのよ。千堂君の特集が組まれている雑誌とか見せてもらったし」

「ほうか」

何か特別な感想があるかと思って内心期待しながら千堂はの次の言葉を待った。

「何か、千堂君が別人に見えたよ。雑誌で特集組まれている写真とか」

「さよけ」

「まあ、人並みに驚いたよね」

それだけか!

千堂がを見ると彼女はニッと笑っている。

あ。遊ばれている...

「まあ、そうね。カッコ良かったんじゃないのかな?前に大阪に来て話をしたときは中学のときの感覚で話が出来たけど、何か、こう...遠い人って感じ。うん、そうだ。遠い人って感じがしたのよ。何となく」

「何やねん、それ。ダチも何人かそんなこと言うてたりするけど、ワイはワイや」

「だよね」とは笑う。

何となく、険悪な雰囲気はなくなった気がした。

「ほいで、これから...」

「帰るよ」

「何でや!?」

のあっさりとした返事に千堂が勢い込んで突っ込む。

「え?だって、明日お稽古があるし」

目をぱちくりとしてが言う。

「や、こう..なあ?」

此処もどうにか察してほしい。だが、は首を傾げて「なあ、って何?」と聞き返した。

「...今度、いつ来る?」

とりあえず今日は引き止めるのは無理だ。

自分が色々と疲れていることもあるが、彼女の教室の先生はめちゃくちゃ怖いと言っていたので病気でもないのに前もって休みを申し出ずに休んだらきっと大変なのだろう。

彼女の事情を慮って引き下がることにした。

しかし、の返事は「さあ?」だった。

うな垂れる千堂にはきょとんとしている。

「ま、まあ。また来たらええわ」

持久戦、苦手と言えば苦手なのだが...

そんなことを思いながらもう戦う気力も残っていないことから千堂はこの場での決着は諦めた。

それに、今決着をつけるよりももうちょっと先の方が楽しめるし。

「ほな、駅まで送るわ」

「いいよ。練習があるでしょ?」

「駅まで送ったら走って帰る。十分練習や」

なるほど、とは納得して送ってもらうことにした。


「縁は異なもの味なもの」

窓の外を眺めながら柳岡が言う。

「どうしたんや、柳岡君」

会長に声をかけられて柳岡は振り返った。

「いや。千堂とはんはまさにそれやと思って」

面白がって言う柳岡にさらに会長も面白がる。

「千堂、決着付けれたとおもうか?」

「無理でしょう。こういうとき、意外とヘタレですから」

からからと2人は笑う。


ジムでおじさん2人が笑いあっているとき、の隣を歩く千堂が盛大なくしゃみを2回した。

「大丈夫?風邪引いちゃった??」

「誰かがワイの噂してんねん。ったく、誰やねん」

「...くしゃみ2回は悪口だって聞いたことあるよ?」

の言葉に千堂は言葉につまり、ふと浮かんだ人物がいる。

「柳岡はんや、きっと」

千堂の勘は見事な大正解だった。









桜風
10.8.14


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