花、一輪 1





まだ春が遠いある日、練習から帰ると居間の卓袱台の上に綺麗な封筒が置いてあった。

「アンタに手紙が来てるよ」

母親にそう言われてその封筒を手に取る。

初めてだな、と思った。

それは披露宴の招待状だった。


部屋に帰って練習着などが入っている鞄を部屋の隅に適当に置き、ベッドにポスンと腰を下ろす。

部屋の中には大きな水槽があり、その中でアロワナがゆったりと泳いでいた。

千切って封筒を開けようと思ったが、あまりにも綺麗だったため、立ち上がり机の引き出しから鋏を取り出して封筒の口を切り、またベッドに戻った。

中から出てきたのは結婚披露宴の招待状。

「あいつ、結婚する甲斐性なんてあったのかよ...」

苦笑しながら呟いた。

差出人は神谷だ。中学の頃、青木と木村と、そして神谷は3人でつるんでいた。色々と悪さをしたし、思い出したら少し恥ずかしくなるような青臭い青春を送った友人だ。

神谷だけ別の高校に進学し、それ以来連絡は取っていなかった。

高校に上がって一度会って以来の連絡だ。

だから、こういうめでたい席に態々呼ばれるような間柄かと聞かれれば「微妙だな」と答えると思う。少なくとも、自分はそう思っていた。

しかし、こうして招待されているのだ。招待されたからには、行かないと、と何となく思った。

しかし、神谷と連名の差出人。まあ、新婦なのだが...彼女の名前に何となく見覚えがある。

平凡な名前ではないがそこまで非凡ではない。

よくあると言われれば、少し悩んで頷くと思うくらいには印象を残している名前だ。

まあ、とにかく。

懐かしい気持ちが湧いてきたので中学の卒業アルバムを引っ張り出した。

クラスごとの写真の中で自分の痛い写真を見つけて思わず目を逸らす。

「あ..ぁあ?!」

目を逸らした先にその名前があった。

新婦の名前。

って..委員長かよ...!!」

当時でも珍しい、『おさげにメガネ』という典型的な、絵に描いたような優等生の出で立ちを確か3年間貫き、あだ名なんだか3年間『委員長』と呼ばれていた女子。、勿論成績優秀でスポーツもそこそこ出来ていたと記憶している。そこら辺は絵に描いたような典型的な優等生ではなかったな、と思い出す。

しかし、その彼女があの神谷と結婚すると言うのだ。

人生、何があるか分からない。


夕飯が出来たと声をかけられて階下に降りた。

「神谷君って、アレだろう?中学のときに...」と早速母が話を始める。

差出人の名前を見たのだな、と思って苦い表情をする。食事が一気に不味くなった。

なぜなら、「アンタはどうなんだい?彼女くらい居るんだろう?」と、余計なお世話だと返したくなる話題を挙げてきたからだ。

少しでも早くこの場を去ろうと味わうことなくご飯を掻き込んでまだ口に含んだ状態で「ごっそさん」と言ってその場を逃げるように去った。

まだ話したりない母が不満そうな表情を浮かべているが、ここは逃げるが勝ちだ。

部屋に戻ってもう一度招待状を見る。

しかし、初めてだから分からないが、こういうのは結婚式も一緒にするのではないか?

違うのかな、と思いながら式の案内が記載されていない招待状を見て首を傾げた。



翌日、ジムに行くと青木がすでに来ていた。

「おう」と声を掛けると「おう」と返す。「昨日届いたか?」と言われて苦笑しながら頷いた。

着替えてジムに戻り、準備運動を始める。

「行くだろう?」

どこに、とは言わずに木村が問うと「まあな」と青木は頷いた。

「てか、あいつにそんな甲斐性があったとはなー」

青木の呟きに思わず噴出した。

怪訝な顔で自分を見る青木にニッと笑いながら「オレも昨日そう思った」と返すと「やっぱり思うよな」と青木もニッと笑った。

今日、ジムに来る前に返事をポストに投函しておいた。

折角の悪友の晴れの舞台だ。見に行かなければ罰が当たると言うものだ。

数ヵ月後に久しぶりに会える友人のことを思い浮かべて何となくおかしくなって笑った。









桜風
09.6.6


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