花、一輪 3





木村の視線を感じたは慌ててそっぽを向き、人の陰に隠れて木村から見えないような場所へと移動した。

「さっき、うちが厳しいって言ったでしょう?」

不意にが声を掛けてきた。

の姿のあった場所を見ていた木村は視線をに向ける。

「言ったな」と同意するとは少し悲しそうな表情を浮かべた。

「わたしがこんな形で結婚することになったでしょう?それで、今は両親は今まで以上にあの子に厳しくなっちゃったのよ。わたしみたいな失敗はするな、って」

「...失敗、ねぇ」

木村はを見て神谷を見た。

神谷は肩を竦める。

とりあえず、家の両親の反対さえなければこの2人は幸せそうだと思うのだが...


難しいものだな、と思っている「木村君」とが名前を呼ぶ。

「ん?」

「木村君と、って前に会ったことがあるのよ。覚えてる?」

「はぁ?!」

『覚えてる?』と言われても...今日、紹介されて初めて彼女がの妹だと知ったと言うのに...

「や、それっての勘違いだろう?」

「いやいや。それがさ。俺も初めて話を聞いたときに驚いたけど、確かにそんなこともあったなーって」

神谷も同じく会ったことがあるらしい。

と、いうことは中学のときだなとあたりをつける。

「...てか、ちゃんは今いくつだ?」

高校の制服を着ているから15歳以上18歳以下だと言うことは分かる。

「今、高3。今年受験生よ」

じゃあ、5歳違うということか...

学生時代の5歳の歳の差と言うのは結構大きいぞ?特に中学生と小学生と言うのは結構差があるように思える。

そんなことを考えながら記憶の糸を手繰ってみたが、全く思い出せない。

「いつ?」

「中3」

中学3年のときに会ったというのだ。

「んなこと、覚えてねぇよ...」

ダメだ、全く覚えていない。

そう思って降参すると神谷が面白そうに話し始めた。




自分たちが中3のとき。

それこそ荒れまくって近所にも親にも迷惑を掛け捲っていたときだ。

高校受験なんてものを控えていたが、大して重要とは思っていなかった。

いつものように喧嘩に明け暮れ、その喧嘩の数を武勇伝のように周囲に広めていた青臭い子供だった自分たちは、何か、泣き声のようなものが聞こえて足を止めた。

正確には、足を止めたのは木村だけだった。

「おい、何かきこえねぇか?」

木村の言葉に青木と神谷は顔を見合わせ少し耳を澄ませてみた。

「あー、まあ...」

「何か、聞こえるな。ガキの泣き声じゃねぇの?」

放っておけ、という悪友たちの言葉を無視して木村は泣いているはずの子供の姿を探した。

その子はすぐに見つかった。

土手を転がり落ちたのか、膝をすりむいて「お姉ちゃん」と言いながら少女が泣いている。着ている制服を見ると自分の通っていた学校のものではないと分かる。ということは、小学校の学区外に来て迷子になって泣いているのだ。

こんな風貌だったら怖がられるかな、とも思ったが放っておくために探したのではない。

土手を降りて少女の前にしゃがんだ。

「大丈夫か?」

努めて優しく言ってみた。

少女はきょとんとして、やがて別の意味で泣きはじめた。

「あーあー。だから言わんこっちゃねぇ」

遅れてやってきた青木が呆れたように言う。

「こんなちっちゃい子から見たら俺ら怪獣だぜ」

笑いながら神谷がそう言った。

怪獣...まあ、確かにそう言うものを見た反応なんだろうな...

そう思ったが、木村は少女に手を差し伸べる。中々手を出さなかった少女の手を半ば無理やり握って立たせた。

更にびいびい泣き始めた少女の声を聞きながら「先行ってろや」と青木たちに声を掛けてスタスタと歩き出す。

そういわれた2人は、木村が何をするのか気になったのと、別に用事があるわけじゃないからという理由で興味本位で木村についていくことにした。

木村の後を歩いていると、商店街に向かっているのが分かった。

何だ、ケーサツに届けるんじゃないのか。落し物で。

彼の家に向かっていることに気が付いた青木たちは途端に興味をなくしたが、それでもここまで着いてきたんだし、と付き合うことにした。

「おふくろ」

中で店番をしている母親に声を掛ける。

「どうしたんだい、その子。アンタ、何かしたのかい??」

驚いたように出てきた母がそう言った。

「ちげーよ。迷子だろうよ。アンタ警察に連れてってくれよ」

「あたしがかい?アンタ、暇なんだろう?あんたが連れてってあげなさいよ」

そういわれて物凄く苦い顔をする。

「ンなとこに行ったら、説教が始まるだろう。別に特にこれと言って悪いことしてないってのに...んじゃ、頼んだぞ」

先ほど他校の生徒と喧嘩をしたが、あれは向こうが売ってきたものを仕方なく買ったので悪いことはしていない。

母に拾った少女を預けた。

ふと目に留まった店の売り物の黄色いチューリップをひょい、と1輪抜いた。

小学校に上がった子なら誰でも知っていると思われる花だ。

「んじゃな。あんま遠くまで来るなよ」

木村はそう言って少女にそのチューリップをプレゼントして青木と神谷と共にまた家から遠ざかっていった。

少女はチューリップを手にしてやっと笑った。




そういえば、そう言うこともあった。

そして、その後、少女を警察に連れて行こうとしたらその少女の姉と名乗る子がやって来たと母に聞いたような気がする。

少女も「お姉ちゃん!」と泣きついたので、間違いないだろうと思って少女を姉と名乗る彼女に返した、とも。

「もしかして、あのときの...」

目を丸くして木村が聞くと笑いながらが頷く。

「そーいうこと」

神谷も楽しそうに肯定した。

「って、あれって低学年くらいだと思ってたんだけど!?」

「あの子、背は小学校卒業してから伸び始めたからね。今でもちょっと小さいほうだと思うけど?」

確かに、今でも中学生と言われても頷いてしまいそうだ。

しかし、まさかあの少女が数年後にはとても愛想のない子に育っているなんて思いしなかった。









桜風
09.6.27


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