| 花、一輪 5 |
| 道場破り...? 市場から今日の花を入荷して帰ってきた父の手伝いをしていると店先で「たのもー」と女の子の声がした。 母は台所で朝食の支度をしている。 父は今裏手で車から積荷を降ろしている。 しかし、ウチの近所に道場なんてあったか...? 首を傾げて閉めているシャッターを見た。 「達也...」 母が心配そうに声を掛けてきた。 「ちょっと見てきてくれないか」 父も気になるようでそう言う。 「へいへい」 バケツに水を入れていた木村は立ち上がって腰に手を当てて体を伸ばす。木村はボクサーなんてものを生業としているから、用心棒扱いをされることがしばしばある。まあ、昔散々迷惑をかけたのだからこれくらいの面倒は自分が引き受けて解決できるのなら安いものだ。 開店前だし、シャッターを開けてまた降ろすのが面倒で裏口から表にまわることにした。 「たのもー!」 最初の「たのもー!」から少し待ってみたが、ノーリアクションだったのでもう1回腹のそこから声を出した。 「あーあー、聞こえてる」 細い路地からそんな声が聞こえた。 シャッターが上がるものと思っていたので予想外のところからの声にびくりと肩を竦めた。 そして、木村も道場破りの姿を目にして口をあんぐり開けた。 何でまた... 全く何も推測できない。 とりあえず、 「ちゃん、朝っぱらから大声出されたら近所迷惑だから」 と自分がここに出てきた理由を口にした。 ま、まあ...そうかもしれない。 木村の言葉には納得する。 正直テンパッていた。 知らない..でもないけど。知らない人の家に突撃をしたのだから。実行するまで3日悩んだくらいだ。 後に、がこの話を木村にすると「3日って少なくないか?」と微妙な顔をされた。と、なると。何日だったら合格をもらえたのだろうか...? そんなことを思って首を傾げることになるなんてそのときのには思いも拠らないことだった。 「で、ウチに何の用?店はあと3時間以上しないと開かないけど...」 花を買いに来たでもなさそうだ。 というか、何ではこんな大きな鞄を持ってきているんだ?それこそ、合宿か何かで泊り込みというスケジュールのような... まさか、と自分の頭に浮かんだ事態を否定して彼女の答えを待ってみた。 「達也、知り合いだったのかい?」 家から出てきたのは父だ。 中々戻ってこないから心配で様子を見に来たのだろうか。 「おはようございます」 はきちんと頭を下げて挨拶をした。 「まあ、知り合い..か?」 微妙だな、と思う。 先日、顔を合わせて声を掛けた。一応、「どーも」という全く愛想のない返事だったが会話..もした。キャッチボールができていなかったから会話と言わないかもしれないが... 「こんなところで立ち話をするのも何だから、上がってもらいなさい」 そう言った木村の父に「ありがとうございます」と礼儀正しく礼を言っては木村が出てきた路地に向かって足を進めた。 「ちゃん」 自分の横をすり抜けようとしたに木村が声を掛ける。 彼女は足を止めて木村を見上げた。 「何でうちに来たの?」 まだ理由を聞いていない。 はにこりと微笑んで 「家出」 と返して木村の父の消えていった角を曲がった。 「...おーい」 遠い目をして木村が呟く。 いま、何て言った...!?家出??家出だと!!??? 何だかとても面倒くさいことになりそうだ... 深い溜息をつき、そして家の裏口に向かう。 腹減った。朝食を済ませてから考えよう... |
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