花、一輪 6





母は急遽の分の朝食も用意してくれた。

はそつがないようで、母の手伝いをしている。

息子一人だからその息子は台所仕事は手伝わない。ほかの事は頼めばやってくれるが...

普段からよく「娘が欲しかったわー」とかぼやいているから、こうやって娘みたいな子と一緒に台所に立つことに何やら喜びを感じているようだ。


「ところで、ちゃん。ウチにどうして来たんだい?」

朝食の席で母が物凄くまともな疑問を口にした。

まあ、さすがに家出娘を匿うなんて事はしないだろう。そう思った木村は安心して朝食の目玉焼きに箸を伸ばしていた。

「木村さんが勉強を見てくださると約束してくださったので。勉強合宿です」

「あ?!」

木村は驚いて体をの方に向ける。

反動で腕が味噌汁が注いである椀に当たり、ちゃぶ台の上に零れる。

「ああ、もう。何やってんだい」

母が慌てて台拭きを取りに台所に戻った。

「全く、落ち着きがないなぁ」

新聞を読みながら朝食をとっていた父も顔を顰めてそういう。

「どういうつもりだよ」

声に出さずに口を動かす。

はプイと横を向いてそれ以上何も言わない。撤回しないということは、本気で居座るのか??

台拭きを持ってきた母がちゃぶ台を拭きながら朝食中に新聞を読む父を注意している。

は本当に撤回をするつもりがないようで。

仕方ないので、木村は実力行使をしてもらうことにした。



少し朝早いが、それでも訪問時間を調整していられない。

母がの部屋を整える前になんとしても連れ帰ってもらう!!

と、いうか。

高校を出ていない自分が高校生に勉強を教えることが出来るなんて本気で思っているのだろうか、あの母親は。

しかし、娘であってもおかしくない女の子の出現により、母の判断力は鈍っているのだろう。父は、君子危うきに何とやらで詮索しない方向でいくことにしたようだ。

住所を頼りに探し出したそのマンションは少し古めかしい。

今流行のオートロックとかではなく、そのまま階段を上がった。管理人室もない。

部屋番号を確認してインターホンを押した。

「はーい」とインターホンのスピーカーからの声が帰ってくる。

「木村だけど、ちょっと良いか?」

「う..ん」

朝っぱらからの来訪者に戸惑った様子でとりあえず、インターホンのマイクが切れ、すぐに玄関から顔を出したのは神谷だった。

「何だよ、どうした?朝っぱらから」

「その朝っぱらの少し早い時間にお前の義妹がうちに押しかけてきたんだよ」

「義妹..ってちゃんか?!」

玄関から聞こえた単語にも気になったようで顔を覗かせてきた。

「あがって、木村君」

にそういわれて木村も玄関先でする話ではないと納得し、家の中にお邪魔することにした。

「悪いな、朝飯時に」と一応謝罪した。

「ううん。あ、木村君も食べる?」

に誘われたが、「いや、済ませてきた」と答える。

「早いなぁ...!」

感心したように神谷が言い、「花屋の朝は早いんだよ」と木村は苦笑しながら返す。

腰掛けるように促されてダイニングテーブルに着いた。

が出してくれた淹れたてのコーヒーを飲んで一息つく。


「で、ちゃんがどうしだんだって?」

神谷に話を促され、先ほどの事件を話してみた。

神谷とは顔を見合わせた。

「そんな約束..」

「してねぇ!というかなぁ、オレが高校の勉強見れると思うか?中退してんだぞ??」

「...木村君は頭悪くなかったでしょう」

ただ勉強をしなかっただけで、とが言うが

「それって中坊んときの話だろう?何年前だよ」

元々器用だったからコツさえつかめればある程度のものはある程度出来る。それがつまらないと思ったことは何回もある。

しかし、勉強は本当にやる気が起きないから無理だ。

そもそも、何だって自分の家にがやってきたのかもさっぱりわからない。

「んー、ちょっと待ってくれる?」

そう言っては電話を掛け始めた。

実家にかけているのかと思ったが、よくよく考えたら2人は反対を押し切って結婚したのだから和やかに実家の両親と会話が出来るはずがないからきっと違う。

「しっかし、どうやって木村の家なんて調べたんだろうな」

神谷がコーヒーを飲みながら呟いた。

確かに...

そこまでは考えていなかった。

10歳のときの記憶を鮮明に覚えていたのだろうか。それにしても、迷子になってあそこに居たのだから迷子になるまでの道のりを覚えていなければ辿りつくのは難しいだろう。

「悪いな、出勤前に」

よく考えてみたら世間の社会人は出勤するものだ。少なくとも、今日は『平日』なのだから。

「あー、俺は大丈夫。あいつも、今日は営業先に直行っつってたからいつもより遅く家を出ても大丈夫らしいし」

「何だか、住む世界が違う感じがするな」

木村の素直な感想に神谷は笑う。

「俺にとってみたらプロボクサーの方が住む世界が違うさ」

確かに、そうかも。

どこに電話をかけているか分からないの様子をちらりと見て、木村は手持ち無沙汰をごまかすようにコーヒーを飲んだ。









桜風
09.7.25


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