| 花、一輪 7 |
| 電話が終わったらしく、が戻ってきた。 「んで?」と木村が促す。 「学校で勉強合宿が開かれているらしいの」 「ちゃんは、それに出るんだ?」 安心したように木村が聞いた。 しかし、は申し訳なさそうに「ううん」と答える。 木村の表情が固まったのは分かったが、説明しなければ話は進まないと思い、は続けることにした。 「さっき電話したのはあの子の友達の家なの。それで、聞いてみたらあの子は申込用紙を提出しなかったんだって。書いてきたけど」 親の同意が要るから親にサインと判を捺してもらう。それを見た親は娘は勉強合宿に出るのだと信じる。 しかし、勉強合宿への出席の回答をしていないから学校側は彼女が参加していなくても家に電話をすることはない。 と、いうことは... 「あいつ、確信犯かよ」 と、言うことになる。少なくとも、思い付きでは出来ない作戦だ。 申し訳なさそうにが頷いた。 「何だってこんなこと...」 「たぶん」とが呟く。 木村は彼女を見て続きを促した。 「あの子、進学したくないのよ、きっと」 「だったら、何で親に直接話をしないんだよ」 「聞かないから、ウチの両親は。娘は自分たちの敷いたレールの上を自分たちの決めたペースで走らないと気が済まないのよね」 そりゃ、ご愁傷様。 そう思ったが、今の状況では自分が一番ご愁傷様だ。 「木村君」 にちらりと視線を向けた。彼女が続ける言葉は予想できた。 「1週間。勉強合宿にいっていることにしたら1週間だけなの。だから、お願い」 ゆっくりと考える時間をあの子に、と頼まれる。 物凄い貧乏くじだ...しかし、まあ... 「1週間経ったら追い出すぞ。あと、親が捜索願とか出したらすぐに家に帰すからな。正直、面倒なことに巻き込まれたくないんだよ」 木村の言葉にはぱっと表情を明るくした。 「うん、ありがとう。学校側とか親とかの情報はちゃんとこっちで拾っておく。木村君に迷惑を掛けないようにするから」 今現在、既に迷惑を掛けられている状況なんですけど... 喉のところまで出掛かったその言葉は呑んで「おう」と返し、木村は神谷家を後にした。 木村が出て行った。 きっと姉たちのところだ。 追い出されるだろうか... 普通は、追い出すよな。姉が迎えに来て、「ご迷惑をおかけしました」と木村の両親に頭を下げて、家に帰されるのだろう。 ふと、店の方に視線を向ける。木村の母が何かをしている。 「何か、お手伝いできることありますか?」 『花屋』というのは、実は自分の憧れだった。どうせ家に帰されるのなら、少しくらいそれを味わってみても良いだろう。 「おや、手伝ってくれるのかい?」 嬉しそうに木村の母が言う。 が頷くと紙を差し出してきた。切花の値札だ。 「ここ、薄く下書きしてるだろう?これをペンでなぞってくれるかい?」 「はい」と返事をして渡された紙とペンを手に、ちゃぶ台に向かう。 丁寧になぞり、全てを書き終えた。 「案外可愛らしい字を書くんだな」 「わぁ!!」 一生懸命書いていたから集中しすぎて目の前の人物に気づけなかった。 「ちゃん!?ああ、達也。お帰り。アンタもういい年してるんだから、ちゃんをいじめるんじゃないよ」 悲鳴のようなの驚いた声に母が慌てて家の中を覗いてくる。居たのは息子で、息子が何か悪戯をしたのかと勝手に納得した。 母にそういわれて木村は肩を竦める。 「あの、出来ました」 が渡すと「ありがとう、助かったよ」と木村の母が嬉しそうに礼を言う。 それが何だかくすぐったくては目を細めた。 その表情を見た木村は1週間だけ、とやっとこの状況を受け入れることにした。あとで両親には本当のことを話しておこう。 でないと、何かあったときの対処に困ることになるだろうから。 |
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