花、一輪 9





「へー、そりゃ災難だな」

サンドバッグを叩く手を止めて青木が他人事のように返した。

「他人事だな」

「ああ、そりゃ他人事だろ?」

間髪入れない青木の返しに木村は苦い顔をする。

「しかし、あの子がの妹だったとは...」

神谷から話を聞いたときには青木は傍に居なかった。その後も、何となくそんな話題にならなかったため木村もはなしておらず、今回やっと青木もあのときの少女の正体を知るところとなった。

「で、1週間預かるって?」

「まあ、な。何かあったらが何とかするって言うし」

「委員長も、ホント変わったよな」

感慨深げに青木は呟いた。

「まあな」

確かに、自分たちの抱いていたイメージの彼女とはかなりかけ離れたところに現在の彼女が居る。

でも、まあ。

「今のほうが楽そうだよな」

杓子定規だった当時に比べれば、今の彼女は生き生きしている。にもああやって生き生きとすることができる場所があれば良いのにな。

はきっと今窮屈なんだと思う。

だから、ああやって可愛くなく反発して見せて。

きっと、大人には従順だ。

自分は年齢的には『大人』だが、彼女の姉と同級生ということもあって大人の部類に入らないのだろう。

「そういや、ちゃん。何でウチが分かったんだっけ?」

聞くのを忘れたな、と思っていると

「大方、姉貴か神谷の卒業アルバムでも見たんじゃねぇのか?ほら、中学ん時の」

ああ、そうか。何でこんなことを気づかなかったんだろう。

青木が気づいて自分が気づかなかったことが何だか悔しい。

木村のその心境を察したらしい青木がニッと笑う。優越の笑みだ。

ああ、ムカつく...!!


家に帰る頃には大抵夕飯は済んでいる。

一人でもぐもぐと食べているとが居間にやってきた。手負いの野生動物よろしく木村との距離をとっている。

懐く気がないのか?まあ、別に良いけど...

「木村..さん」

しぶしぶ付けた感ありありだな...

木村は苦笑して「何?」と返す。

返事をしてもは距離を保ったままだ。

「何で、ボクサーなの?」

「何で..って...」

理由を聞かれると話しにくい。

自分たちが喧嘩を売った物凄く強い人間が図らずもプロボクサーで。そいつを倒すためにボクシングジムに入って、その流れでプロボクサーになったのだ。

理由は..自分たちが弱かったからってことになるのだろうか。

いやだな、そんなことを話すの。

「秘密」

言いたくないからそう返した。

すると、はへそを曲げたらしく不貞腐れた表情を浮かべた。

素材は悪くないのに、そんな表情をしたら「可愛い」なんて褒め言葉は遙か彼方だ。

ちゃんは、何になりたいんだ?」

は進学したくないといっていた。ただ親に反抗するためだけに進学をしないといっているのかもしれない。しかし、そうではないかもしれない。何かなりたいものがあるのかもしれないのだ。

「言わない。あたしも、秘密」

膝を抱えて俯きながらそう言った。

「ダチに笑われたんだ?」

木村の言葉には顔を上げた。

「そうなんだな」

苦笑して木村が言う。

は、案外素直なのだ。素直ではないのはその口だけだ。

「アンタには絶対に言わない!」

頑なになってしまったに苦笑した。

「はいはい。まあ、いいけど。ちゃん先に風呂は入れよ」

「...なんで」

「飯食ったらオレが入るから」

木村の言葉に渋々は立ち上がった。

「宿題はしたか?」

「うるさいな、言われなくてもしてるよ」

そう返してぷりぷり怒りながらは居間を後にした。

しかし、何故自分はああまで彼女に嫌われているのだろうか...

初めての出会いがそんなに悪かったのだろうか。それより、再会したときの自分の態度??

どれをとってもあんなに毛嫌いされるほどの何かをしでかした記憶はない。

第一、そんなに嫌いならここに来なければ良いのに...

そんなことを思い始めたら腹が立ってきた。味わっていたご飯を口の中に掻き込み、食器を洗って部屋に戻る。

何だかとってもイライラしている。








桜風
09.8.22


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