| 花、一輪 10 |
| の部屋は木村の自室の隣となった。 元々は物置として利用していた部屋だが、そうたくさん物を置いていなかったこともあり、昨日の昼間、父がその部屋を整頓して取り敢えず1週間程度ならそこそこ快適につけるような部屋に変えた。 女の子が家にいるという特殊な状況に両親はそれぞれ張り切っていた様子で、木村も色々と手伝わされた。 朝早く起きてなるべく音を立てずに部屋を出る。 「...あ」 トイレにでも行ったのか、がぼうっとした表情で廊下に立っていた。 「おはよ」 挨拶をすると 「はよーございます」 と深くお辞儀をしながら彼女がそう言う。 ああ、寝ぼけていると素直なんだな。 少し可愛げがあるじゃないか、と苦笑した。 「まだ早いから寝てていいぜ」 そう言うとコクリと頷き、「はーい」と返事をして部屋に戻っていった。 自分に噛み付くのは本当に虚勢だな、と苦笑する。 きっと彼女は大人には逆らわない子なのだろう。いや、逆らえないのかもしれない。 本来なら木村も『大人』の部類に入る。 しかし、姉と同じ年ということからあんな風に生意気なんだろうな。 何となくそう納得して朝のロードワークに出た。 家に帰ると丁度父が市場から本日の花を入荷して帰ってきていた。 「手伝うぜ」と声を掛けると「ああ、頼む」と返される。 荷を降ろしていると勢いよく階段を降りる音がした。 息を切らして顔を出したのはだ。 「おはよう、ちゃん」 父が言うと「..はよー、ござい..ます」と息を整えながらきちんと礼をした。 「はよ」さっき挨拶をしたがもう一度してみると「はよーございます」と言葉は同じだが表情と声音は全く違って生意気なものとなっている。 さっきとのギャップがおかしくて笑いをこらえている木村に向かって怪訝な表情を浮かべただったが、取り敢えず荷降ろしを手伝おうと店先のサンダルを引っ掛けようとした。 しかし、「お袋のほうを手伝ってくれよ」と木村に止められて片足をサンダルに入れて止まる。 まあ、自分が力仕事とかはムリだなと納得して頷き、台所で朝食の支度をしている木村の母の元へと向かった。 「ちゃんはいい子だな」 満足げに頷きながら父がそう言う。 「あー、そうだな」 適当に返しながらなるべく重いものを自分が降ろすように荷物を選んだ。 今日は商店街の役員の会合があり父はそれに出席すると言う。母も親戚の用事があると言って午後からは不在だと言った。 「何時ごろ帰るんだよ」 「5時ごろには戻れると思うけどねぇ」と母が言い、「父さんは、ちょっと分からないな」と答えた。 まあ、5時ごろならそれからジムにいける。 了解して午後からの店番は自分がするを木村が請け負った。 午前中は木村が自分の用事を済ませるために家を出た。 用事と言ってもそんな大変な用事ではない。ただの買い物だ。 昼前に帰宅して両親を見送って店番に入る。 は居間で参考書を広げていた。 ちらちらと店先に立つ木村の姿を盗み見る。本当に、花屋のようだ。 客がやってきた。どうやらプレゼントの花束の注文のようだ。 昨日は木村の母が器用に花束を作っていた。値段よりも豪勢に見えるものを作った彼女に客は喜び、もまた尊敬の眼差しを送った。 「そうっすねー。好きな花とかありますか?」 は既に勉強の手は止まり、木村の接客を見入っていた。 意外なことに木村も花束が作れるらしく、更にそれが何とも見事と来た。 客はオレンジ系統の花束を、と注文をした。 客と世間話をしながらも花を選んで色や長さのバランスを考え、包装紙やリボンなども選んでいる。 「ありがとうございました!」 木村の作った花束に満足した客が店を後にする。頭を下げて見送る木村の姿には何だか悔しさを覚える。 ふと、木村が振り返ってと目を合わせる。 「勉強、いいのか?」 「うるさいなー」 不機嫌全開ではそう返し、また居間のちゃぶ台の上に広げている参考書とにらめっこを始めた。 |
ブラウザバックでお戻りください。