| 花、一輪 12 |
| 午前中は勉強をして、午後は店を手伝いたいとが言ってきた。 木村の両親は顔を見合わせたが、がどうしてもと言うので了承した。 「何だって店の手伝いなんてしたいのかねぇ」 ぼやくように木村は声を漏らし、車の荷台にバケツに入った花を置く。 「何となく、『お店』の手伝いをしてみたかったの。ウチは両親共働きでサラリーマンだから」 なるほどなー、と木村は適当に相槌を打つ。 「あたしもついていく」 「...は!?」 「おばさん、いいですか?」 「ああ、いいよ。達也がサボらないようにしっかり見張っててちょうだいね」 オイオイ... サボろうとは思っていなかったが、息抜きはしようと思っていた。 木村は自室に戻り、キャップ帽を持って戻ってくる。 「これ、被ってろよ」 そう言って乱暴にの頭に被せる。 「暑いよ」 「顔、誰かに見られたら拙いんじゃないのか?」 「あ...」 自分は所謂家出少女だった。すっかり失念していた。木村家が自分を歓迎してくれていたから、そこへ来た経緯など忘れるくらいに居心地が良かった。 「どこ行くの?」 「地域のコミュニティスクールって言うんだっけか?その中の生け花教室が使う花のお届け」 そんな仕事も請け負っているんだ... は自分の知らない世界にわくわくした。 「まいどー」と木村が教室に行くと奥様方が木村を取り囲む。結構人気者のようだ。 お菓子とかのおすそ分けなどもある。 「あら?妹さん?」 ふとに視線が集まった。 「あー、いや。親戚から預かった子ですよ。勉強の息抜きに配達に連れてきてドライブ気分だけでも味わせてやろうかと...」 苦笑して言う木村に「そう、優しいのねぇ」と奥様方はまた感心している。 本当、卒がないな... この人当たりのよさそうな人がボクサーとか信じられない。 「人気者なんだ?」 「次の配達があるんで」と言って何とか奥様方から逃げ出した木村にがからかうように言う。 「まあ、ああいう人が次は店に買いに来てくれたりするからな。邪険にもできねぇんだよ」 立派な営業活動らしい。 「ねえ、ボクサーなんだよね?」 今度は何の話題になるのだろうか... 「そうだけど?」 「試合はないの?」 「ねぇよ。あったらちゃん預かれないっての」 苦笑して木村が言った。 「なんで?」 「減量があるから。人は腹が減るとイライラするだろう?減量中は人に気を使うなんて面倒くさいこと出来ないし、結構口が悪くなってるしなー」 は目を丸くした。 木村は自分が憎まれ口を叩いても結構軽く受け流している。かなり『出来た人』というイメージがあったのに。 「木村さんでも?」 ポロリと口から零れた。 あ、やばい。イヤだな... はそう思ったが木村も彼女のそんな心境を察してそこは突っ込まなかった。 「オレ、結構気が短いほうだぜ?中坊のときは、知ってるかもしんないけど、かなり荒れてたし、高校に入ってもそれは続いていたしなー。親父もお袋もオレのせいで何回もいろんな人に頭下げてるんだぜ」 何か、想像つかない。 姉の夫となった神谷も中学の頃は喧嘩に明け暮れていたとかいう話を聞きたことがあり、それもかなり信じられない事実だが... 「まあ、あんときがなかったらオレはこうなってなかったと思うし。思い出すと恥ずかしいけど、やっぱりいい思い出かなとも思うな」 恥ずかしそうに苦笑しながら木村が言った。その顔がとても優しくては何だか恥ずかしくなって俯いた。 「ちゃん?酔った?」 窓を開けようとしたが、「大丈夫」と俯いたままが返したので窓を開けるのはやめた。 だって、暑くなるし。 暑い。そうか、暑いな... 木村はウィンカーを出して左折した。 驚いては顔を上げて外の景色を見た。コンビニだ。 「アイス、食おうか。約束の時間までまだちょっとあるし。暑いし」 「...あたし、木村さんがサボらないように見張るためについてきたんだけど」 そういえば、母がそう声を掛けていたなと思い出す。 「共犯者になれば密告されることはないだろう?」 悪戯っぽく笑う木村にも笑った。 「じゃあ、これで買ってきて」 駐車場がいっぱいだったから車を停められない。運転できないに車を任せるわけにもいかないので木村が車に残らなく得てはいけないのだ。 財布を受け取ったはドアを開けてコンビニに向かった。 暫くするとが戻ってくる。 「はい」と財布を返してきたの手にはハーゲンダッツ。そして、渡されたコンビニの袋の中を見れば100円アイス。 「ちょ、何で!?」 「え?」ととぼけた表情では木村を見返し、にこりと微笑んだ。 「サボりの口止め料とかその他諸々込みで。ごちそうになりまーす」 「かわいくねぇ!!」 とても悔しそうにいう木村に「いただきまーす」と笑顔で返したは楽しそうにアイスを口に運んだ。 |
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