| 花、一輪 13 |
| ジムに向かう前に父に呼び止められた。 今日はまっずぐ寄り道しないで帰ってくること、と釘を刺されて首を傾げる。 子供じゃないんだから、と思いつつも態々釘を刺してきたのは何かあるのかと思い、プロ仲間に寄り道に誘われたが、断って家に帰った。 「よし、花火をするぞ」 「『よし』じゃねぇ。何だよ、花火があるからまっすぐ帰って来いって言ったのかよ」 たいした用事じゃないじゃないか。 溜息をついてふと視線を滑らせるとが満更でもない様子だった。 あー、はいはい。 両親もが喜ぶだろうと思って花火を用意したのだろう。 「ま、いっか」 いつもロードワークのコースにしている土手に行き、河川敷に下りる。 親が居るところで花火をするのなんて何年ぶりだろう... たぶん、小学生の頃以来なんだろうな。中学に入ると早々に思春期と言うか反抗期に突入して、それを抜けたらもう親と花火なんてありえない行事になっていたと思う。 「達也はしないのか?」 と一緒に母が手持ち花火の種類を選んでいる。 「あー...」 別にしなくても良いよ、と言おうと思ったが父としても自分に花火を楽しませたいのかもしれないと思って「うん」と言ってたちの方に足を向けた。 ススキを手にして火をつける。 おー、懐かしいな... 夏と言えば花火だ。夏に合宿に行けば花火はするが、でも何となく懐かしい。 「あたし、花火初めて」 「は!?」 の言葉に木村家の声が重なった。 「初めて!?」 「うん。初めて。あ、でも学校の臨海学校とかだったらしたことあるよ。家でしたことはないけど...」 木村の両親は顔を見合わせた。 「思う存分おやり」 木村の母にそう促されては戸惑った。 そんなに変なことだったのだろうか。 木村を見上げると、 「それ、先をこっちに向けてみ」 とを促す。 言われたとおり持っているまだ火をつけていない花火の先を木村の方に向けた。 木村は自分に火が向かないように少し移動しての花火に自分の花火から火を移す。 「わあ!」 どうやら、その火の点け方がお気に召したようでは歓声を上げた。 「ねね、木村さん。これ全部にいっぺんに火をつけても良いかな?」 5本くらい束ねては目を輝かせながらそう言う。 「あんま欲張って火傷したら馬鹿だぞ?」 木村の指摘に頬を膨らませては花火を3本に減らした。取り敢えず、複数持ってみたいようだ。 まあ、高校生だし... よそ様から預かっている子とは言え、多少危険でも小学生ではないので大丈夫だろうと踏んで火をつけてやった。 さっきよりも勢いがあるから明るい。は嬉しそうに花火の火を見つめていた。 「...ねえ、何で最後はこれなの?」 チロチロと燃える火を見つめながらは呟く。 「古代から決まってんの」 手にしているのは勿論最後の締めの線香花火。 先ほどまで派手な輝きを放っていた花火とは打って変わって物凄く地味だ。 「古代..って。そんな昔からはないじゃない」 「でも、決まってんの。侘び寂びってやつだよ。これぞ日本人の心」 何だか納得しないが、でも、こうやってさっきの楽しかったことを思いながら火を眺めるのも悪くないな、とは何となく思った。 花火を終えてごみを片付けて家に向かう。 両親は一足先に家に戻った。 も一緒に戻れば良いのに、手伝うと言って残ったのだ。 「楽しかったか?」 木村が聞くと 「うん。花火ってただ火をつけて遊ぶだけなのに、なんでこんなに楽しいのかな?」 「さあなー。火遊びだからじゃないかな?いつも大人がダメだって言ってることを堂々と出来ることが楽しい..とか」 楽しい理由なんて考えたことがなかった。 木村の言葉には「そっか」となにやら納得したらしく上機嫌に歩いている。 「あたしね」 少し先を歩くが声を出した。 「ん?」 聞いているぞ、という意思を示す木村。 「あたし、小さいときからお花屋さんになりたかったんだ。今はフラワーアレンジメントっていうのかな?お花で何かを作る人になりたかったの。だから、大学進学しなくて専門学校に通いたいのよね」 それでウチに来たのか、とやっと納得した。 「で?」 「親にはまだ言ってない。親のプランではあたしはお嬢様学校と呼ばれる短大に行って、親が決めた一流大学卒の結構良い会社に勤めている人と結婚するんだって。あたし、興味ないんだよねー、学歴って。ねえ、こんな人生って幸せかな??」 くるりと振り返っては木村に問う。 「オレに聞くなよ。ちゃんの幸せって、ちゃんが決めることだろう?誰かから見たらオレの人生は不幸に見えるかもしれないけど、オレはそう思ってないし。そういうことだろう?至上の幸福だともいえないけどな」 けど、結構楽しんでる。気に入ってるし、後悔もしていない。 「でも、専門学校に行くにもお金掛かるし。そしたら、バイトを禁止されているからお金も持っていないあたしは親に出してもらうしかないのよね。親戚とかも絶対ムリだし」 「...姉ちゃんは?」 木村が言うとはブンブンと手を振る。 「お姉ちゃんには頼れないよ!それこそ、これから子供を産んで育てていかなきゃならないのに」 そういえば、そうだったな... 「じゃあ、ちゃん自身が闘わないといけないな」 甘えられる相手が居ない。だったら、自分がどうにかするしかない。 「うん、闘う。木村さんちに居候させてもらって充電させてもらったし」 「ま、玉砕したら線香くらいは上げてやるよ」 笑いながら木村が言うとはつんと澄まして「何言ってるんですか。あたしが勝つに決まってるでしょう?お祝いさせてあげるわ」と言った。 強気のに木村は苦笑する。 「おう、頑張れよ」 木村の返事にはニッと笑った。 |
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