花、一輪 14





明日、が家に帰る。

父に頼んで花を入荷してもらった。それを餞別として渡そうと思ったのだ。

木村家で居候していた間、は宿題やそれ以外の勉強もきちんとこなした。一応、勉強合宿に行ったことにしていたのだからそれなりの成果を見せなければと言うのがあるのだろう。

まあ、そうは言っても実家に帰ってすぐに親と大喧嘩をするのだろうが、それは別の話なのかもしれない。

両親は家に可愛い女の子が居たのに、その子がいなくなるのがとても寂しそうだ。

「アンタが出てってもいいのに」

と母に言われてちょっとカチンと来た。

まあ、ずっと実家に置いてもらっているからそう大きな顔は出来ないが...

は相変わらず可愛げなかったりするが、最初に比べたら随分とマシになった。


ちゃん」

木村が帰る準備をしていたの部屋の前で声を掛ける。

「何ですか?」

ドアを開けたが顔を出した。

既に制服を着ている。

そういや、制服でウチに来たんだったよな...

学校の勉強合宿に行くとうそをついていたのだから、制服で家を出たのだ。

「これ」

そう言って木村は親に頼んで市で入荷してもらった花を渡す。まだ1輪しか咲いていない。

「結構強い花だったと思うから」

そんな難しい花ではなかったと思う。まあ、育て方よりもその花の名前の由来のほうを重視したのだが。

「グラジオラス..ですよね?」

「そ。知ってんだ?」

「見くびらないでくださいよ」

からかうようにいう木村に拗ねたようにが返す。

「ちょっとオレ、これから出かける用事があるから。見送れないけど、まあ..頑張れよ」

「木村さんも、早くチャンピオンになってくださいね」

さらりと難しいことを言われて木村は渋面を作った。

それに対しては満足したようにその顔を見上げて笑っている。

最後まで憎まれ口か。まあ、それがきっとの『らしさ』なのかもしれない。


用事が済んで家に帰るとちゃぶ台の上に花束が置いてあった。

「何だ、これ」

ちゃんがアンタに。色々とご迷惑をおかけしましたってね」

おそらく、の初めての花束だ。

そして、両親との闘いに負けたらこれが最初で最後の彼女の作品となる。

「根性、見せろよ」

あまり綺麗にまとまっていない花束を見てそう呟いた。





木村に2回目のチャンスが廻ってきた。もう一度チャンピオンカーニバルに出場できることになったのだ。

きっとこれが最後のチャンス。

試合当日控え室にいるとさっき外に出た八木が部屋に入ってきた。

「木村君。試合の後の方が良いかと思ったんだけど...」

何だろう、と顔を上げる。

彼は花束を持っていた。

それはグラジオラスを中心とした花束だった。

グラジオラスは今の季節の花ではない。

「誰からですか?」

「帽子を目深に被った人だったな。名乗らなかったんだけど声からして女の人だったよ。あ、カードが付いてるよ」

グローブをはめているので2つに折ってあるカードを広げることは出来ない。頼んで八木に広げてもらう。思わず苦笑が漏れた。

』と書いてあった。

そういや、あの後、から彼女が家を飛び出したと聞いた。

どこに住んでいるのかは頑として言わないらしいが、それでも元気だという定期連絡が入るから今はそれでいいと思うことにしている、と。

は自分があげたグラジオラスの意味を理解したのだろうか。それとも、自分が貰った花だから、という意味で返してきたのか。

グラジオラスの名前の由来はその葉の形がラテン語で剣を意味する言葉であるらしい。

確かに、見た感じ剣のようだ。

闘いに赴くにぴったりだと思ったのだ。

調べてみたら花言葉に『勝利』というものもあった。丁度良いじゃないか。グラジオラスの剣で勝利を手にする。

そして、あまり花の咲いていないのを選んだのはこれから先があると言うことを意味したかった。

ちょうど1輪だけ咲いているのがあったのでこれが良いと思って彼女に渡した。

自分宛に届いた花束のグラジオラスは先のほうまで咲いている。

自分が宛てた意味を当てはめてみると、もう先がないと言うことか?

もし、彼女が木村から貰ったグラジオラスを木村のこめたとおりの意味で受け取った上でこの花を送ってきたというなら、相変わらずと言うところなのかもしれない。

「...ったくよ!」

可笑しいのとちょっとムカついたので気合が入った。


たぶん、まだ会場に残って試合を見て帰るのだろうから見せ付けてやろう。オレだってまだ先がある、1輪しか咲いていない花なんだからな!!









桜風
09.10.3


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