彼女と彼の間には―side彼女― 2





今日も今日とて先生に仕事を言われる。

今日のはさすがに誰かに手伝ってもらわないときついかもしれないけど、でも、あいつに借りを作るのはやっぱり嫌だから独りで頑張ることにした。何とかなるっしょ?


印刷室からプリントを運んで借りている生徒指導室に入った途端、こけた。

足が痛いのはともかくとして、プリントを派手に撒き散らしてしまった。

「ああ、もう、やっちゃったよぉ。」

泣きたくなる。仕事はまだまだあるのに余計な仕事を自分で作ってしまった。

プリントを拾いながらドアに向かうと男子生徒の足があった。顔を上げてみると手にプリントがある。

「あ、すみませ..ん。ちょっと、何でアンタが居るの?!」

声を掛けるとプリントの向こうの顔が見えた。...宮田一郎。こいつにだけは見られたくなかった。

「数学、置いて帰っちまったから戻ってきたんだよ。それより、何だよ、これ。」

「何って、プリントに決まってるじゃん。」

とっとと帰ってほしくて素っ気なく答え、

「アンタこそ、早く数学持って帰りなよ。」

こいつの持っているプリントも乱暴に奪って机に向かった。

これからこのプリントを一部ずつにまとめてクラスごとに数を揃えてボックスに入れておかないといけない。

「それどうするんだ?」

まだ入り口に立っているあいつが声を掛けてきた。

「...各クラスに配るから一部ずつまとめて、ホッチキスで留めるの。」

仕方ないから答える。

そのまま一部作ってはホッチキスで留めるという作業をしていたら

「...要領悪いな、お前。こういうのは一部ずつとりあえず作っておいて、最後にまとめてホッチキスで留めていけばいいだろ?」

と口を出してきた。

言われた作業を想像すると、これはなんとも、

「...ぉお、なるほど。そっちの方が早く済むかも。って何してんの?」

想像して感心していると部屋に入ってきたこいつがプリントに手を伸ばしてきた。

「手伝うんだよ。これって俺もしなきゃいけないものなんだろ?」

「いいって、アンタ習い事「今日のはもう終わったし、バイトもない。」

そう言って黙々と作業を始めた。

...まあ、自主的に手伝ってくれるならいいか。


2人でやって終わったのは9時過ぎ。これは独りでやっていたらあと2時間くらいは掛かってたかも...。

とりあえず、クラスのボックスに配り終わった。

こんなに早く終わったのも宮田のおかげ。だから、

「宮田。」

声を掛けた。

「何だよ。」

やっぱり素っ気なく声を返してきた。

「...今日はありがと。」

結構失礼なことをしていたから素直にいえないけど、やっぱり感謝はしてる。

「ああ。」

少し優しい声だった。

宮田って案外いい奴なのかも知れない。


「ああ!!」

そうだった。

「何だよ、突然。」

眉間に皺を寄せた宮田が声を掛けてくるけど、

「宮田、数学。」

私も宮田もすっかり忘れてた。宮田が何であんな時間に学校に来ていたかを。

「ほら、戻るよ!」

そう言ってあたしは回れ右をして学校に向かって走る。あんまり足は速くないんだけどね。

「お前は戻らなくてもいいだろ?何で戻ってんだよ。」

「夜の学校って怖いんだから。誰も居ないより誰か居た方がマシだと思うよ。」

本当に怖い。それに、あたしを手伝ってくれたから忘れたんだと思う。あたしにも責任はあることだと思っている。

。」

走りながら宮田が声を掛けてきた。

「何?」

「俺、バイトの入ってない日は6時くらいまで残れるぜ。習い事って言っても、結構遅くまで開いてるからそれくらいなら大丈夫なんだ。だから、ちゃんと声掛けろよ。お前がきっかけで押し付けられたっていうことを否定するつもりはないけど、決まったものはしょうがないだろ。出来る限りやるから。」

やっぱり意外といい奴なのかも知れない。

「わかった。ありがとう。」



それからは時々宮田に声を掛けるようにした。そうは言っても仕事が多いときだけ。やっぱり習い事をやってて仕事もしてたら大変だろうから。


でも、委員長以外の仕事も当然しないといけない。

クラスの体育祭選手のエントリー。

出来るだけ得意なものに出てもらうために体育測定の結果を貸してもらった。

記録を見て、ふと思う。

「宮田って、短距離の方が長距離に比べて記録いいんだね。」

「まあ、そうかもな。」

「派手な容姿をしてる奴って実は地味なものが得意なんだと思ってた。」

うん、本当に意外。

「なんだよ、それ。は、どれも得意じゃないんだな。」

「...放っておいて。じゃあ、宮田はリレー出て。」

「まあ、それが妥当だな。は、借り物競争ってところか?足の速さとか関係ないから。」

「何で高校の体育祭で借り物競争なんてのがあるんだろ。」

「見てて楽しいけどな。」

「こっちは見られて楽しくないけどね。笑いを取るために出るようなものなんだよ?」

去年も見事に笑いを取りましたとも!!

「まあ、精々笑いを取ってくれ。」

そう言って宮田が笑う。普段、無愛想だけど、時々笑ったりもする。まあ、人間だから当然かもしれないけど、宮田って笑わないイメージがあったからこれを見ると得した気分になる。

でも、これとさっきの発言は別物。だから、

「ひどっ!そんなことを言う奴は巻き込んでやる!!」

と宣言しておいた。

「そういえば、は何で委員長やろうと思ったんだ?」

突然聞いてきた。

まあ、普通は疑問に思うのかもね。

「あのままだと話が進まずに缶詰だったし、あたし、去年も体育祭実行委員だったのよ。去年もああやって、長く時間掛けて決まったことが1つだけっていうとても要領の悪いことをしていたからね。その上、時間がなくなってそのしわ寄せが一番下っ端の一年に来たのよ。なんか、そういう理不尽なことが嫌だったから。期間限定だし、その間を乗り切れればいいはずだから何とかなるかなと思って。まあ、それで宮田を巻き込んだのは悪かったとは思ってるわ。副委員長くらいなら誰かやってくれるかとも思ってたんだけど...」

いや、本当に申し訳ない。

「ふうん。ま、終わったことをどうこう言うつもりはねぇよ。あまり気にしなくてもいいぜ。」

「そう言ってもらえるとありがたいわ。一応、気にしてたんだよね。」

良かった。

やっぱ宮田って思ってたのとは違って結構いい奴だったのかも知れない。

思い込みで凄く失礼なことしちゃったからな〜。今度きちんと謝らないと。




そうです、一郎さんは『いい奴』です。
手を焼かずにはいられないそんな性分。
損な性格だとちょっぴり思ってしまいます(苦笑)


桜風
05.4.19


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