彼女と彼の間には―side彼女― 4




今日は珍しいところに足を運ぶ。

この前兄貴が『宮田一郎のデビュー戦だ!』とかって騒いでいた。兄貴はアマチュアのボクシングをやっていてそれなりに詳しいし、ボクシング好き。

『宮田一郎』。

私も同じ名前の人を知っている。だから、何となく行ってみようと思った。本人に聞いてみても良かったけど、自分の目で見てみたいと思ったから何も言わずにホールへ来てみた。


入場した彼を見て驚く。兄貴の言っていた『宮田一郎』はあたしの知っているその人だった。

更に驚いたことに、むちゃくちゃ強かった。


そのあと、少し残って試合見たけど、面白くない。さっきの宮田の試合はあっという間に終わったけど、そっちの方が見てて面白かった。

ホールを後にして帰ろうとしたら、

?」

と聞きなれたハイバリトンの声を掛けられた。

振り返ってみると、やっぱり宮田だった。

「よ!」と軽く声を掛けて宮田に近づく。

「どうしてこんなところに居るんだよ。」

と聞いてきたから

「ボクシングの試合を見に来たに決まってんじゃん。それ以外でどうしてこんな時間にここにいるのよ。こんばんは。」

そう答えた。あれ?何か間違ったかな。宮田の眉間に皺が寄る。

「独りでか?」

「そうだよ。デビュー戦だったんだってね。おめでとう、初勝利。宮田のやってたスポーツってボクシングだったんだ。アンタってホント意外な男だね。」

「『意外な男』って何だよ。」

「宮田って格闘技なんてやりそうにないじゃん。ボクシングってもっとゴツイのがやるもんだと思ってたからね。」

ウチの兄貴がゴツイからね。

「父さん。俺、こいつ送っていくから先に帰ってくれないか?」

宮田が後ろにいるお父さんに声を掛けた。

...え?

「お前の家どこだよ。」

と聞いてくる。

「え?いいよ、独りで帰れるから。宮田は試合があって疲れてるでしょ?」

「全然。いいから。ここから帰る途中にに何かあったら俺の後味が悪い。」

そう言われると教えないわけにはいかないから答えた。


「そういえば、何でボクシングを見に来たんだ?」

「ウチの兄貴が今日が『宮田一郎』のデビュー戦だとかって騒いでいたから。あたしも『宮田一郎』って知り合いがいるから同姓同名の別人だったら面白そうだな、と思って。まさか、兄貴の言ってた『宮田一郎』があたしの知ってる『宮田一郎』だとは思ってもみなかったけどね。」

「兄貴なんているんだ?」

「まあね、2人ほど。一人は高校と大学で応援団やってた。今は一応社会人。もう一人は大学でアマチュアのボクシングやってるよ。」

宮田は「ふうん」と何かに納得しているみたいだった。

「じゃあ、俺の試合があるって言ってたのは。」

「ボクシングやってる方。兄貴が宮田のお父さんもボクサーだったって言ってたけど?」

「ああ、父さんもボクサーだったぜ。そういえば、その騒いでたっていう兄貴は?一緒じゃないのか?」

「今、修羅場になってるらしいから。彼女の機嫌を損ねて大慌て。他人の試合どころじゃないってね。」

「ああ、そう。」


そのまま帰りながら色々話をした。

宮田はボクシングの話をしているときは楽しそうだった。

ボクシングの中継があるときは兄貴が問答無用でチャンネル変えてたからあたしもそこそこボクシングを知っていた。兄貴にちょっと感謝。

「ありがとう、宮田。家、ここだから。悪かったね、送ってもらって。」

「いや。じゃあな、また学校で。」

そう言って宮田は帰っていった。


宮田の次の試合はいつだろう。兄貴なら分かるかな?




偶然にも知ってしまった一郎さんの職業。
智一さんがハイバリトンなので一郎さんもそうさせていただきました。
いい声ですよね...(惚)


桜風
05.5.19


ブラウザバックでお戻りください