| 準決勝、宮田は負けた。 凄く痛かったんだろうけど、凄く頑張ったんだけど、負けた。 医務室にいるはずだから、行ってみた。 震える手でノックをすると宮田のお父さんが顔を覗かせる。 「ああ、さん。一郎の応援に来てくれていたんですか?一郎の意識はしっかりしていますから、心配ありませんよ。」 そう言われた。 「あの、今お話しすることは出来ませんか?」 非常識なことかもしれない。疲れてるし、怪我してるし。 でも、今、会いたい。 「今、ですか...。いいですよ。少し席を外しましょう。」 そう言って宮田のお父さんは部屋を出て行った。 宮田が寝ている傍に行って膝をつく。 「宮田...」 痛々しい姿を目の当たりにして、泣きそうになった。 「とことん落ち込め!」 1回深呼吸をして、口を開く。 「落ち込んで落ち込んで一番下まで行ったら、あとは上るしかなくなるよ。だから、どん底まで落ち込みな。あたしは宮田と一緒に沈んで行くつもりはないけど、でも仕方ないから上ってくるのは待っててあげるよ。だから、絶対..また、ここまで上が..ってきてよ。」 堪えきれなかった涙が零れる。 「...」 宮田が優しい声であたしの名前を呼ぶ。 「大丈夫、大丈夫だから。少しだけ、待ってろ。」 そう言いながら体を横にしたまま、あたしを抱き寄せた。 宮田のその言葉が嬉しくて、頷いた。 宮田は入院することになったからお見舞いに行くって言ったら、『来るな』って言われた。 本人に断られたら行くわけにもいかないから、受験勉強に専念することにした。たぶん、それを気を遣ってくれたんだろうし。 宮田が退院したって噂を聞いた。 一応教室を覗きに行ったけどいなかった。 今日は仕方ないから明日も覗いてみようってそう思った。 放課後いつものように図書室で勉強をする。 家は兄貴が煩いから、中々勉強できない。 机について問題を解いていると 「。」 あたしの好きなハイバリトンの声で名前を呼ばれる。 「宮田...。おかえり。」 自然と笑顔になる。 「ただいま。」 宮田もあの心臓に悪い笑顔で応えてくれた。 「ごめん、先に帰ってて。もう少しここにいるつもりだから。」 残念だけど仕方がない。でも、宮田の答えは 「いい。待つ。」 そう言って宮田は鞄を置いて本棚に向かった。 「...ありがとう、一郎。」 机から遠ざかって行く宮田に聞こえないように言う。 でも、やっぱりまだ『一郎』って呼ぶのは照れくさいな。 本を持って宮田が戻ってきた。 前の席に座って本を読んでいる。 大好きな人が傍にいることがとても温かいものだって思い出す。 ふと、視線を感じた。 「何?」 「いや、何でもない。」 そう言って宮田は再び本に視線を落とした。 |
ホント、私にとって外せないエピソードらしい。
ヒロインは案外『待つタイプ』なのかもしれませんね。
桜風
05.6.14
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