彼女と彼の間には―side彼女― 6





準決勝、宮田は負けた。

凄く痛かったんだろうけど、凄く頑張ったんだけど、負けた。


医務室にいるはずだから、行ってみた。

震える手でノックをすると宮田のお父さんが顔を覗かせる。

「ああ、さん。一郎の応援に来てくれていたんですか?一郎の意識はしっかりしていますから、心配ありませんよ。」

そう言われた。

「あの、今お話しすることは出来ませんか?」

非常識なことかもしれない。疲れてるし、怪我してるし。

でも、今、会いたい。

「今、ですか...。いいですよ。少し席を外しましょう。」

そう言って宮田のお父さんは部屋を出て行った。

宮田が寝ている傍に行って膝をつく。

「宮田...」

痛々しい姿を目の当たりにして、泣きそうになった。

「とことん落ち込め!」

1回深呼吸をして、口を開く。

「落ち込んで落ち込んで一番下まで行ったら、あとは上るしかなくなるよ。だから、どん底まで落ち込みな。あたしは宮田と一緒に沈んで行くつもりはないけど、でも仕方ないから上ってくるのは待っててあげるよ。だから、絶対..また、ここまで上が..ってきてよ。」

堪えきれなかった涙が零れる。

...」

宮田が優しい声であたしの名前を呼ぶ。

「大丈夫、大丈夫だから。少しだけ、待ってろ。」

そう言いながら体を横にしたまま、あたしを抱き寄せた。

宮田のその言葉が嬉しくて、頷いた。



宮田は入院することになったからお見舞いに行くって言ったら、『来るな』って言われた。

本人に断られたら行くわけにもいかないから、受験勉強に専念することにした。たぶん、それを気を遣ってくれたんだろうし。



宮田が退院したって噂を聞いた。

一応教室を覗きに行ったけどいなかった。

今日は仕方ないから明日も覗いてみようってそう思った。


放課後いつものように図書室で勉強をする。

家は兄貴が煩いから、中々勉強できない。

机について問題を解いていると

。」

あたしの好きなハイバリトンの声で名前を呼ばれる。

「宮田...。おかえり。」

自然と笑顔になる。

「ただいま。」

宮田もあの心臓に悪い笑顔で応えてくれた。

「ごめん、先に帰ってて。もう少しここにいるつもりだから。」

残念だけど仕方がない。でも、宮田の答えは

「いい。待つ。」

そう言って宮田は鞄を置いて本棚に向かった。

「...ありがとう、一郎。」

机から遠ざかって行く宮田に聞こえないように言う。

でも、やっぱりまだ『一郎』って呼ぶのは照れくさいな。

本を持って宮田が戻ってきた。

前の席に座って本を読んでいる。

大好きな人が傍にいることがとても温かいものだって思い出す。

ふと、視線を感じた。

「何?」

「いや、何でもない。」

そう言って宮田は再び本に視線を落とした。




ホント、私にとって外せないエピソードらしい。
ヒロインは案外『待つタイプ』なのかもしれませんね。


桜風
05.6.14


ブラウザバックでお戻りください