彼女と彼の間には―side彼― 2





「...やばい。」

「どうしたんだよ、宮田。」

「いえ、何でもないです。」

ジムで練習をしていたときに思い出した。確か、かなりの量の数学の宿題が出てたはず。それにも拘らず今日は数学置いて帰ってきてしまった。練習終わったら取りに戻らねぇと。


練習が終わって一旦家に帰ってから制服に着替えて学校に向かう。一日に二回も学校に行くのって面倒だよな。

校舎に入るところである教室に電気が点いているのを目にする。確か、あそこは生徒指導室。

こんな時間まで教師の説教食らってる奴でもいるのか、ご苦労なことだな。

しかしそうではなかった。そこにいたのは体育祭実行委員長のあいつ。

何でこんな時間まで?と思っていたらあいつは大量のプリントを持ったまま、こけた。

...なんだ、あいつ?

とりあえず目撃してしまったからには無視することも出来ず、生徒指導室を覗いてみることにした。

教室のドアから中を覗くと

「ああ、もう、やっちゃたよぉ。」

と半泣きであいつが何かをやっている。足元に落ちていたプリントを拾い上げて、驚いた。

体育祭のプリントだった。

「あ、すみませ..ん。ちょっと、何でアンタが居るの?!」

足元ばかり見てプリントを拾っていたこいつは顔を上げて驚く。

「数学、置いて帰っちまったから戻ってきたんだよ。それより、何だよ、これ。」

「何って、プリントに決まってるじゃん。」

だから、何でこんなに可愛くない反応を返すんだよ。

「アンタこそ、早く数学持って帰りなよ。」

俺の持っていたプリントを半ば強引に取って部屋の机に向かった。

「それどうするんだ?」

「...各クラスに配るから一部ずつまとめて、ホッチキスで留めるの。」

そう言いながらあいつは一部作ってはホッチキスで留める、というなんともまどろっこしい事を始めた。

「...要領悪いな、お前。こういうのは一部ずつとりあえず作ってそれを交互に積み重ねておいて最後にまとめてホッチキスで留めていけばいいだろ?」

「...ぉお、なるほど。そっちの方が早く済むかも。って何してんの?」

「手伝うんだよ。これって俺もしなきゃいけないものなんだろ?」

「いいって、アンタ習い事「今日のはもう終わったし、バイトもない。」

もしかしたら他にもこいつにだけさせていた仕事があるんじゃないか、と少しは罪悪感もあって手伝うことにした。


2人でやって何とか作業は終了した。時計を見ると9時を回っている。2時間以上かかっていたことになる。とりあえず、各クラスのボックスにさっき作った配布用のプリントを入れて帰る。

「宮田。」

「何だよ。」

「...今日はありがと。」

聞き取りにくい小さな声でが言った。

「ああ。」

こいつにも少しは可愛いところがあるのかもしれない。


「ああ!!」

一緒に並んで帰っていると突然が声を出した。

「何だよ、突然。」

「宮田、数学。」

...あ。

「ほら、戻るよ!」

そう言っては走って学校に向かう。それに続いて俺も学校へ走る。

「お前は戻らなくてもいいだろ?何で戻ってんだよ。」

「夜の学校って怖いんだから。誰も居ないより誰か居た方がマシだと思うよ。」

夜の学校に慣れている奴の言葉に思えた。何回も遅くまで残って体育祭の準備をしていたのかもしれない。

。」

「何?」

「俺、バイトの入ってない日は6時くらいまで残れるぜ。習い事って言っても、結構遅くまで開いてるからそれくらいなら大丈夫なんだ。だから、ちゃんと声掛けろよ。お前がきっかけで押し付けられたっていうことを否定するつもりはないけど、決まったものはしょうがないだろ。出来る限りやるから。」

「わかった。ありがとう。」



それからは時々放課後残ってと一緒に仕事をした。やっぱりは遠慮するらしく、仕事が多い時にしか声を掛けてこない。


しかし、実行委員の仕事は委員長や副委員長でも他の奴らと同じ事はしないといけない。

つまり、クラスで誰がどの競技に出るかを考えることだ。

体育測定の結果を借りて競技選手を決める。

「宮田って、短距離の方が長距離に比べて記録いいんだね。」

「まあ、そうかもな。」

「派手な容姿をしてる奴って実は地味なものが得意なんだと思ってた。」

「なんだよ、それ。は、どれも得意じゃないんだな。」

「...放っておいて。じゃあ、宮田はリレー出て。」

「まあ、それが妥当だな。は、借り物競争ってところか?足の速さとか関係ないから。」

「何で高校の体育祭で借り物競争なんてのがあるんだろ。」

「見てて楽しいけどな。」

「こっちは見られて楽しくないけどね。笑いを取るために出るようなものなんだよ?」

「まあ、精々笑いを取ってくれ。」

「ひどっ!そんなことを言う奴は巻き込んでやる!!」

「そういえば、は何で委員長やろうと思ったんだ?」

ずっと気になっていた。

委員長なんだから大変だということは予想できていそうなものだし、中々進んでやるようなものでもないと思う。

「あのままだと話が進まずに缶詰だったし、あたし、去年も体育祭実行委員だったのよ。去年もああやって、長く時間掛けて決まったことが1つだけっていうとても要領の悪いことをしていたからね。その上、時間がなくなってそのしわ寄せが一番下っ端の一年に来たのよ。なんか、そういう理不尽なことが嫌だったから。期間限定だし、その間を乗り切れればいいはずだから何とかなるかなと思って。まあ、それで宮田を巻き込んだのは悪かったとは思ってるわ。副委員長くらいなら誰かやってくれるかとも思ってたんだけど...」

「ふうん。ま、終わったことをどうこう言うつもりはねぇよ。あまり気にしなくてもいいぜ。」

「そう言ってもらえるとありがたいわ。一応、気にしてたんだよね。」

そう言っては安心したように笑った。

...こいつ、笑ったら結構可愛いと思う。




ヒロインと一緒にいる一郎さんは、ヒロインの存在を不思議なものを見つけた気分でしょう。
今までに出会ったことの無いタイプ。
そんな感じ。


桜風
05.4.27


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