| 毎日カメラを構えている変な人と会話をした翌日、宮田はいつものコースを走っていつもの公園に差し掛かった。 そして、彼女は今日もカメラを構えている。 もうかかわりを持たないほうがいいな、と思って休憩をせずに走ろうとした。 「もうちょい待って」 驚いて振り返ると彼女はカメラを構えたままで、カメラの向こうの被写体にでも言ったのかな、と思ったが相変わらず被写体と言えば『景色』だ。 彼女なら『景色』にでも声を掛けそうだが、何だか自分に掛けられた言葉のような気がして宮田は走る足を止めて彼女へと歩いた。 少し待っていると彼女は構えていたカメラを下ろす。 今日はシャッターを切らなかったようだ。 「昨日、何を撮ってるのかって聞いたでしょ?これ」 そう言って彼女は傍においていたバッグから小さな冊子、アルバムを取り出した。 「開けてもいいのか?」 「まあ、透視ができるならそのままでも良いけど...」 彼女の言葉にこれ見よがしに溜息を吐いた。 そして開いたアルバムの中の写真に宮田は「ふーん」と声を漏らす。 何処にでもある風景だ。 自分がこの目で見ているそれと同じものが四角い紙の中に納まっている。 何か、特別なものが見えるのかと思った。 興味を失った宮田は一応最後のページまで見るのが礼儀かと思い、最後までページを捲った。 そこで、手が止まった。 初めて見た景色がそこにある。 「これって...」 「去年、こっから撮った写真」 彼女は両手の人差し指と親指で四角を作る。写真を撮る人や風景画を描く人がフレームを決めるときの仕草だ。 「けど、これまでのって全然そんな大したことな...」 途中で言葉が止まる。 人の批判は簡単だが、自分がカメラをやっていないのだから、もしかしたら凄いものだったのかもしれないと言葉を飲んだ。 彼女はそんなに宮田を愉快そうに眺める。 「うん、フツーの大したことない写真だったでしょ?けど、これが撮れた」 すごいっしょ?と彼女が少し得意になって言う。 宮田は素直に頷いた。 「そういえば、さんは何で冬だけ?」 あれから宮田は彼女に声を掛けることが多くなった。 カメラを構えているときでも待っていれば「まだ掛かるから今日はムリ」とか言ってくれるから無駄に待つことがないのだ。 「流浪の民だから」 「はいはい」 彼女は適当に言葉を返す。遊ばれているというのがよくわかるので不快に思うときもある。 「ま、冬が一番好きな季節だから」 「春から秋は?」 「撮ってるよ、一応」 「ここでは撮ってないよな?」 「そうね、宮田くん。君には特別に教えてあげよう。わたしは、渡り鳥なのよ」 「へー、すごいなー」 感情の欠片も込めずに言葉を返すと彼女は愉快そうに笑った。 「で、他の季節は何処に?」 宮田が改めて聞くと 「ねえ、宮田くん。決して見てはいけませんと言う娘さんの言葉を守れず、隣の部屋を覗いた。その結末は?」 と言う。かなり端折っているが鶴の恩返しの話だろうか。 「その娘さんの正体は鶴で、居なくなってしまった」 「そういうこと。娘さんが、来年の冬に戻ってこないかもしれないわよ?」 そう言って彼女はウィンクする。 「娘さんって年じゃないだろう」 宮田が悪態をつくと 「何言ってんの。永遠の17歳に向かって!」 と彼女が返す。 「なあ、さん。本当の17歳はそんなこと言わないんだぜ?」 宮田が言うと「それもそうね」と彼女は笑った。 「そうそう。鶴の恩返しじゃないけど、宮田くんの気に入ったのがあったら1枚あげるよ」 そう言って彼女はアルバムを差し出す。 「は?いいよ」 「まあまあ、そう言わずに」 「それって、押し売りって言うんだぜ」 「売ってないもの。けど、ホントに欲しいのないの?」 少し不安そうに彼女が見上げてくるものだから、思わず「じゃあ...」とあの目を奪われた1枚を指差す。 「これ」 「これ?さっすが宮田くん。お目が高い!」 彼女にとって大切なものじゃないのかな、と思ったので遠慮していたのが、どうやらそうでもないようだ。 彼女は快くその1枚を宮田に渡した。 年齢不詳の彼女は、春の足音が聞こえるようになると姿を見せなくなった。 |
桜風
12.3.10
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