風花 3





冬の季節を匂わせるニュースがテレビで流れ始めた頃、またあの公園での姿を見かけた。

さん」

今の宮田の置かれている環境は去年とは違う。ロードワークのコースも変えた。

しかし、冬の便りを耳にした宮田はロードワークのコースを戻した。

彼女に会えるのが心待ちだったような自分の行動に何だか戸惑いもあるが、彼女の姿を目にしてホッとして「風物詩みたいなものだ」と自分に言い聞かせた。

「ちょい待ってー」

カメラを構えている彼女はシャッターを切っていた。

『ちょい』というので、ちょっとなのだろう。

そう思って宮田は彼女の荷物が置いてあるベンチに腰掛けた。

暫くして彼女が振り返る。

思いのほか『ちょい』は長かった。

「ごめん、ちょっと乗っちゃった」

「みたいだな」

自分が彼女を観察するようになってあんなにバシバシシャッターを切っているところは見たことがない。

「久しぶりね、宮田くん。渡り鳥、参上しました」

彼女は芝居がかった礼をした。

「はいはい」

適当に流す宮田に「あら、冷たい」と彼女は肩を竦める。

「お茶飲む?」

彼女はバッグからボトルを取り出した。

「いや」

「あらそう?走ったらちゃんと水分補給しなきゃダメなんじゃないの?よく知らないけど」

彼女の言葉に宮田は苦笑した。

まあ、普通はそうだろうが、水分補給が命取りになるものだってあるのだ。

今は大丈夫だが、時期によっては自分はそれに当たる。

さんを見たら『冬だな』って思うよ」

宮田が言うと

「恋しかったでしょ?」

と返されて「そーですね」とやはり感情を込めずに返した。


さんって、何でいつもここで?」

「ここ?」

「写真撮る場所。あ、時間によって場所を変えてるとか?」

彼女は首を横に振る。

バッグの中からお菓子を取り出した。

「要る?」

「遠慮するよ」

「付き合いが悪いのね」

笑って彼女は良い、パッケージを開けてそれを口に放り込み、咀嚼して嚥下し、「この季節はここからしか撮ってない。しかも、この時間帯。理由は、何となく?」と宮田の質問に返事をした。

相変わらず、会話のテンポを尊重しない人だ。

宮田は呆れたが、彼女が相変わらずで、自分の予想通りだったことに安堵した。

「宮田くんは、何か変わったね」

不意にそんなことを言われて宮田はことばに詰まった。

「普通、1年もすりゃ変わるもんよ。特に若人は」

そう言っては笑った。

一瞬緊張した宮田もふっと息を吐き

「ということは、さんは若人じゃないって話になるよな」

と悪態をつく。

「あら、可愛い」

にこりと微笑んで彼女が言い、

「気持ち悪い」

と宮田はげんなりとして返した。

「また冬の間だけ?」

宮田が問うと

「ええ。何度も言うけど」

「渡り鳥だったな、そうだったな」

と彼女の言葉を遮るように宮田が投げやりに言う。

そんな宮田の様子に彼女は笑い、

「寂しいって素直に言えば、少し考えてあげなくもないわよ?」

と言った。

「俺も色々と忙しい身なんで」

宮田は素っ気無くそう返した。


ある日、いつもの時間に通りかかった公園にが居なかった。

どうしたのだろうと心配になる。

寂しいとかそう言うのではなく、いつもあるものがないと据わりが悪いと言うか、落ち着かないのだ。

まだ春と呼ぶには早い季節で、やはり冬と呼ぶのが相応しい。

待っていても仕方ないし、待つ義理と言うものもないと思い、その日は休憩を取らずにロードワークを続けた。

そして、その翌日。

いつもの時間には公園のベンチに座っていた。

ぼうと空を見上げている。

宮田も彼女の見上げている空を見た。何も見えない。

「珍しいな」

そう声を掛けると彼女はぼんやりと振り返った。

「あら、宮田くん」

「昨日は休みだったのか?」

彼女の座っているベンチに宮田も腰をかけた。

「やんごとなき事情で」

詳しくは聞こうと思わないので「そうか」と返す。いつものように適当ではなく、ちゃんとした相槌だ。

「カメラ、構えてなくて良いのか?」

「うん、ちょっと動かないから」

「壊れたのか、カメラ」

「ううん、わたしの心。今、ちょっと動きそうにないの」

心が動く。だからカメラを構えている。写真を撮っている。つまり、そういうことなのだろう。

「ま、そういう日があっても良いんじゃないか」

「あら、珍しく優しい」

「...さんも若くないんだし」

「あら、やっぱり可愛い」

照れ隠しはどうや見破られてしまったようで、彼女は目を細めて笑っている。

「じゃ、俺はこれで」

慌てて宮田は立ち上がる。

「ありがと、宮田くん」

「風邪、引くぜ」

「若くないものね」

そう言って彼女は笑った。

言おうと思った言葉を先に言われて宮田は、「言うほど、年でもないだろ」ととんちんかんな言葉を置いてロードワークに戻った。









桜風
12.3.24


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