| 冬が終わる頃、彼女からまた写真を1枚貰わされた。 「7枚集めると何でも願いを叶えてくれる龍神様が出てくるから、頑張って」 「どっかで聞いた話だな」 溜息交じりに宮田が言う。 そんな宮田を愉快そうに彼女は見ていた。 はらりと頬に冷たいものが当たる。空を見上げても刷毛で引いているような薄っすらとした雲しかなく、雪雲は掛かっていない。 しかし、チラチラと雪が舞っている。 「ああ、風花だ」 が遠くの山を見て呟く。 「風花?」 「ほら、あの山からたぶん運ばれてきたのよ。ね、知ってる?天気雨ってあるでしょう?」 「晴れてるのに雨が降ることだよな?」 「そ。それを狐の嫁入りって言うじゃない?」 聞いたことがあると思って宮田は頷く。 「こういう天気の日に雪が降ることを『狸の嫁入り』って言うの」 「へえ」 と宮田が感心したような声を漏らすと「嘘だけど」と彼女が言う。 宮田は半眼になって彼女を見た。 「やだなぁ。ジョークですよ、ジョーク」 そう言って愉快そうに笑う。 「けど、『風花』はホント。綺麗な言葉よね。昔の人はどうしてこんなに素敵な言葉が浮かんだんだろう」 そう言っては遠くの、雪が降っている山を見る。 「じゃ、宮田くん。縁があればまた次の冬にお目にかかりましょう」 そう言って彼女はその場を後にした。 翌冬、宮田はロードワークのコースを変えなかった。 冬休みが終わったら冬季限定のあのコースに戻ろうとは思っていたが、今は彼女とじゃれている時間はなかった。 年が明けて、宮田はいつもの時間にあの公園に向かった。 いつもと違うのは、ロードワークの途中ではないと言うことだ。 彼女の姿を見つけてホッとした。 「さん」 彼女はお茶を飲みながら菓子を摘んでいた。 「あら、久しぶりね。あらら??」 宮田の姿を見ては首を傾げた。 「スキーに行ってこけて骨折。いや、若いから捻挫で済んだかな?」 宮田は松葉杖をついていた。 「...まあ、そんなとこです」 腫れ物に触るように周囲が宮田を気遣っていた。それが、どうしようもなく居た堪れなかったから、逆にこの負傷をからかうように口にしたはありがたかった。 「ま、若いんだし。すぐに良くなるでしょ。で、懲りずにまたチャレンジするんでしょ?」 彼女はそう言う。 「チャレンジ?」 「え、1回怪我したくらいで辞めるの?」 真顔で聞かれて、宮田は苦笑する。 「いや、辞めない」 「でしょ?宮田くん、諦め悪そうだもん」 「それ、普通だったら褒め言葉じゃないと思うから」 宮田が指摘すると 「やあねー。わたしだって人を見て言うわよ」 とは笑った。 「さんって、相変わらず失礼だよな」 宮田も笑った。 笑った。久しぶりに、笑ったのだ。ふっと心が軽くなった。 「今日は、撮らないのか?」 「今は休憩。けど、そうね。今日はお開きかな」 心が動かなくなったのだろうか。 心配そうに見る宮田を見て彼女は笑う。 「おやつ、なくなっちゃった」 「買ってきてやろうか?」 宮田が言うと 「ううん、いい。ありがとう。宮田くんは、明日も来るの?」 「どうだろう。そろそろリハビリが始まるから」 「そっかー。ま、冬が終わる前に顔を見せてね」 が言う。 「7枚集めなきゃならないからな」 宮田が言うと 「あ、その気になった?よーし、龍神様を呼び出す儀式を考えなきゃ」 と彼女は笑う。 何処まで本気だろうか。 いや、彼女の本気は何処にあるのだろうか... 宮田は肩を竦め、 「じゃあ、また」 と挨拶をしてその場を後にした。 |
桜風
12.3.31
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