| 冬が終わる前に宮田は公園を訪ねた。 リハビリは順調で、練習も再開した。 だから、ロードワークの途中の休憩に寄ったのだ。 「若いって素晴らしい!」 彼女は拍手する。 「さんにだってそんな若い時期があったんだろ」 と宮田がいうと 「キレが戻ってきたじゃない?」 と彼女は笑った。 思わず宮田の表情が綻ぶ。凄く不思議な人だと思った。距離感というか、そういうのが心地良い。 「さ、今年の1枚。どれ?」 そう言って彼女はアルバムを渡してきた。 宮田はじっくりと彼女の撮った写真を見た。 最初に見せてもらったときは大したことがないと思っていた写真が多かったのに、彼女の腕が上がったのだろうか、良い写真が増えてきたと思う。 「これかな?」 「そ?えーと、3枚目だっけ?」 「まだ半分も集まってないな」 宮田は頷いてそういった。 「ねえ、宮田くん。何か変わった?」 「若者だから、日々変化してるんだと思うけど?」 宮田が返すと「それもそうね」とはあっさり引き下がる。 「じゃあ、さん。また...」 そう言って背を向けた宮田は立ち止まり、 「次の冬は、俺は此処に来られないかもしれないから」 と言う。 別に、待ち合わせや次に会う約束しているわけではない。 けれども、自分にとっては風物詩で。逆に、彼女にとっても自分は風物詩かもしれない。 だったら、それがないと据わりが悪いと言うか、物足りないと思うかもしれない。 そう思って宮田はその言葉を発した。 振り返るとは少し寂しそうに笑っていた。 「そう、わかった。ありがとう、教えてくれて」 「あ、いや...うん。じゃあ」 からもらった写真をポケットに仕舞って宮田は走り出した。 今年も冬を迎えた。 ただ、今、自分が居るのは日本ではない。 だから、いつものロードワークコースを走れないし、その途中の公園で休憩が出来ない。 やはり、風物詩がないと据わりは悪いものだな、と思った。 帰国が決まった。まだ冬のうちの帰国だ。 日本に帰って、その翌日にいつもの時間に公園に向かった。 公園にはの姿があった。 カメラを構えていても雰囲気がいつもと違う。 「さん」 カメラごと彼女は振り返った。 「あれ?」 カメラを構えたまま首を傾げる。 パシャッとシャッターを切る音がした。 「宮田くんだ」 の反応に宮田が苦笑を漏らす。 「久しぶり」 「そうねぇ。冬の後半だものね」 カメラを下ろして彼女は頷いた。 「今回は、良い写真撮れてるのかよ」 「まあ、『良い』っていうのはそれぞれの感性だからね」 彼女はそう言って、今冬撮って現像した写真を宮田に見せる。 「ふーん」といいながらアルバムを捲る。 「今回、枚数が少ないな」 「んー、そうだね」 「調子悪いのか?」 「どうだろう。元気なんだけど、元気出ないって言うか...」 首を傾げながら言う。 「スランプってやつか?」 「そうなのかなぁ...」 首を捻って一頻り唸っていたは「ま、考えても仕方ないし」と立ち直る。 彼女のその切り替えの速さは凄いな、と思う。 チラチラと雪が降ってきた。 見上げると雪雲で空が重そうだ。風花ではないようだ。 「あー、こりゃ、積もるかな?」 は両手を広げて雪を受け止める。 寒さで彼女の指先が赤くなっていた。 「さん。手袋、しないのか?指先が真っ赤になってるぜ」 「ん?うん、何か邪魔だから。宮田くんだって、素手じゃない」 「俺は若いから」 この言葉、久しぶりだな、と思って彼女を見たら「そっか。若さって宝ねぇ」と頷いている。 本当に久しぶりで、冬のうちに帰って来られたことが少しだけ嬉しかった。 |
桜風
12.4.7
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