きらきら星 3





二月の終わり、がいつものように公園でサックスを吹いているとなんとも人の良さそうな男の人が声を掛けてきた。

さんですよね。私は千堂のトレーナーをやっている柳岡といいます。」

(ああ、この人が『柳岡はん』か。もっとゴツくて怖い人だと思ってた。)

千堂との会話に出てくる『柳岡はん』はとても厳しいらしく、千堂もよく嘆いていた。

です。千堂君にはいつもお世話になっています。」

「いや、絶対千堂の方が迷惑掛けとるはずですわ。ところで、今日はお願いがありまして。」

何だろうと首を傾げていると柳岡が

「千堂の勉強見てもらえませんか?」

と言ってきた。

「は?」

「アイツ、高校を途中で辞めるいう半端はしとうない言うんです。でも目の前の学年末テスト、あれを何とかせんと三年に上がれんらしいんです。何とか最短距離というか、ストレートで卒業させたりたいんですわ。お願いします。」

『お願いします』といわれてもは困った。

「えっと、でも明日からテスト一週間前ですよ?」

そう、時間がない。その言葉を聞いた柳岡は唖然となった。どうやらそんな事は一言も聞いていなかったらしい。

「あんのアホが!何でもっと早う言わんのや!!」

(あー、うん。何となく千堂君の『柳岡はん』のイメージと重なってきたなぁ。)

「柳岡さん、一応見るだけ見ましょうか?結果は千堂君の頑張り次第ですし。練習はテスト期間中もするんですよね?」

「いえ、ジムは休ませます。ロードワークと自宅で出来る筋トレのメニュー今から作ります。ホンマにありがとう、さん。」

柳岡はの手を強く握りながら礼を言って走って行った。

はそんな柳岡の背中を苦笑しながら見送った。

「おはようさん。」

遅刻ぎりぎりの千堂が鞄を机の上に置きながら声を掛けてきた。

雑誌を見ていたは顔を上げて挨拶を返す。

「おはよう、千堂君。」 

「昨日は柳岡はんが突然悪かったな。まさかこないな事になるとは思ってなかったわ。」

「千堂君、愛されてるねぇ。で、どうする?学校に残ってやる?」

「あー、ウチでやらへん?ガッコ、寒いやろ。炬燵に入っての方がええわ。帰りはちゃんと送ったるから。」

「まぁ、千堂君がそれで良いなら構わないけど。」

という訳で、千堂の家での勉強会が決まった。


「ばあちゃん、ただいま。」

「こんにちは。」

放課後、千堂と共に千堂家へ向かった。千堂のあとに続いて『千堂商店』の店の中に入ると猫を膝に乗せたおばあさんがレジの横に座っていた。

「武士、どないしたんや、後ろのべっぴんさんは。」

(後ろのべっぴんさん?)

は自分の後ろに誰かいるのかと思って振り返った。

コンッと頭を叩かれ、頭を擦りながら振り返ると千堂が

「お前のことやろ。はよ始めんと時間ないわ。こっちや。」

千堂に招かれて家の中へ上がる。



「あー!!もう頭がおかしなりそうや。」

千堂は頭を掻きながら炬燵に突っ伏した。

「でも、結構進んだじゃない。このまま頑張れば何とかなるんじゃないの?さて、私はそろそろ帰らないと。」

「えらいすみませんね。孫が迷惑かけます。」

「いえ、こちらこそ。夕飯をご馳走になっちゃって。美味しかったです。」

「何や、もうこんな時間か。ほな、送っていくわ。」

千堂も時計を見て炬燵から出た。


「はぁ、寒いな。」

千堂は背中を丸めてポケットに手を入れながら白い息を吐く。

「そうだね。でも、千堂君はこの後にロードワークと筋トレがあるんでしょ?大変だぁ。」

「まぁ、そっちは好きでやっとるコトやし。は受験組なん?」

「んー、悩み中。やりたいことがあるんだけど、まずは両親の説得からだね。」

「さよか。まぁ、頑張りや。ワイはまず、目の前の学年末や。アレが終わったら思いっきしサンドバッグが打てる!」

「まあ、すっきりと清々しく打てるように、あと一週間ちょっと頑張ろうね。」




テストの結果だが、千堂は全教科赤点なしでクリアした。担任の話によれば、これは快挙らしい。

風の噂で千堂の試験勉強はが見てやったことを知った教師たちによる職員会議では、来年度のクラス替えも『千堂とはセットで』ということが秘かに決定したという。




千堂を危険視(?)している教師たちにとって
ヒロインは見事な猛獣使いのように思われている模様...
千堂は虎というより猫という感じがしないでもないのですがねぇ(苦笑)

桜風
04.12.22


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