| 5月のゴールデンウィークの最終日、はいつもの公園にいた。 今日は一回も演奏をしていない。ただ、人を待っていた。 「?」 ベンチに座っていたからいつの間にか眠ってしまったようだ。声を掛けられて目を明けると待ち人が顔を覗きこんでいた。 「どないしたんや。調子悪いんか?おぶって帰ったろうか?」 と心配そうに言われては慌てた。 「違う、違う。今日は千堂君を待っていたんだよ。」 「ワイを?何でまた...」 「5月5日、こどもの日。今日が千堂君の誕生日なんでしょ?」 千堂は驚いた顔をして、頬をぽりぽりと掻く。 「そうやけど、良う知っとったな。」 「まあ、ね。という訳で、、千堂武士さんへ一曲プレゼントしたいと思います!」 そう言って演奏を始めたのは、よく誕生日で歌われる曲だった。独自のアレンジで文字通り、世界中でたったひとつだけのプレゼントだった。 曲が終わって千堂は嬉しそうな顔をして拍手をする。 「おおきに、嬉しかったわ。」 「良かった。物にしようかとも思ったんだけどね。何が良いか分からなかったから、これにしたんだ。もう少し早く知ってたら何か曲を作れたかもしれなかったんだけど。」 「、作曲できるんか?」 「一応、ね。そんな大したものじゃないけど短いやつなら何回か作ったりしてる。」 千堂は「はあ...」と感嘆の溜息を吐いた。 ふと、時計を見て、 「アカン、柳岡はんの角が生えてくる!」 と叫んだ。この言葉にも焦る。 「ごめん!忘れてた。大丈夫?もう行ったほうがいいんでしょ?引き止めてごめんね?」 「いや、誕生日プレゼント、おおきに。ほな、また明日ガッコでな?気ぃ付けて帰りや。」 そう言って千堂は走っていった。 ガシャン!! 後方で大きな音がした。 千堂は嫌な予感がして公園に全速力で戻る。 公園の前の通りには人だかりが出来ていた。 人垣を分けてその中心に行くと、 「?!」 千堂はの隣に膝をついて顔を覗く。 「何や、ニイちゃん。この子と知り合いか?今救急車呼んだから一緒に乗ってやり?」 は呆然としていた。ところどころ服が破けて手や足に擦り傷はあるが、骨折や脱臼のような大きな怪我は見られない。 千堂は安堵の息を吐いた。 は頭がはっきりしてきたのか、周囲を見渡す。胸元を探るがいつも有るはずの物が無い。はヨロヨロと立ち上がった。 「、どないしたん?大人しゅうしとき。」 「無いの。」 「何が?」 「サックス。」 言われてはじめて気が付く。千堂も立ち上がって辺りを見渡し、遠くで光る物を見つけた。 「ちょお、ここで待っとき。」 そう言って見付けた物の元へ行って千堂は顔を顰めた。 そこにあったのはいつもと共に在った、少し前まで『サックス』と呼ばれていたものだった。でも、今は、もう、音を奏でることは出来ない。 千堂はそれを丁寧に拾い上げての元へ戻った。 「、これ...」 「あ...」 は静かに涙を流した。 妹と共に過ごした思い出が詰まっていて、そして妹が亡くなってからも自分を支えてくれた相棒は、もう、音を奏でることが出来なくなった。 千堂からそれを受け取ったはそれを抱きしめて、子供のように声をあげて泣いた。 誰かが呼んでくれた救急車に乗って病院に行った。 千堂は、の両親が着くまで一緒にいるとジムに連絡を入れて検査室前のベンチに座った。 は一応車に轢かれているのだから精密検査を受けている。 少しして、2人の人影が近づいてきた。女性の顔を見ての母親だと分かる。千堂は立ち上がってお辞儀をした。 「今この中で検査受けとります。」 「どうもご迷惑をお掛けしました。...もしかして、千堂君?」 「そうですけど...」 「まぁ。いつもがお世話になっています。の話の中によく出るんですよ、千堂君の名前。」 「そう..ですか。えっと、ワイはこれから用事がありますからこれで失礼します。」 そう言って千堂はジムへ向かった。 翌日、は学校を休んだ。 事故とサックス。二重のショックがあったのだ、仕方がない。 その日の夕方、千堂はいつもどおりにロードに出て公園の近くを通るとサックスの音が聞こえてきた。千堂は足を速めて公園を覗くと、サックスを演奏しているの姿があった。 「何や、サボリやったんか。」 「あ、千堂君。昨日はありがとう。『柳岡はん』に怒られなかった?」 「柳岡はんもそないに鬼やないわ。事故に遭ったクラスメイト、放っとけなんて言う人やない。」 「うん、ナイスミドルだもんね。」 「何やの、それ。...それより、新しいの買うたんか。」 「うん、アレが壊れちゃったのは本当に悲しかったけど、妹との思いでも、あの音も、全部ここの中にある。」 は自分の胸に手を当てた。 「せやな。」 「それに、私の演奏を聴いてくれた人の心にもきっと残ってる。」 「ああ、ワイのここにもちゃんと残っとる。」 千堂は自分の胸を親指で指した。 「ありがとう。あの時たまたまサックスを首にかけずに手に持ってたの。きっと、あのサックスが私を守ってくれたんだと思う。頑張れよって。だから、私はそれに応えられる演奏が出来るように、この新しい相棒と頑張るんだ。クヨクヨしてる暇なんて無いんだから!」 強い笑みを浮かべてが言った。 「せやったら、明日はガッコ来るんか?」 「行くよ。」 「この公園にも?」 「当然。」 その言葉に安心する。 千堂は別れを告げてロードに戻っていった。 |
頼りになる男、千堂武士。
こういう時に支えてくれる人っていいですよね。
そして、ヒロインは千堂に随分心を開いちゃってますなぁ〜。
桜風
05.1.5
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