きらきら星 11





がアメリカに来て2年になるある日、その手紙は届いた。



「シュウさん!日本に帰国するの、早めること出来ませんか?!」

手紙を読み終わったは傍にいたシュウに声を掛ける。

たち4人はもうじき日本で活動することになっていた。シュウの知り合いが大阪でジャズバーを始めるからそこで演奏しないかと言われたのだ。

しかし、こちらで依頼されている仕事があるため今すぐ帰ることが出来ない。

「どうしたんだ、。急にそんなこと言って。」

「私、どうしても日本の4月30日に大阪に帰っておきたいんです。最後の仕事が終わって即行帰ったら何とか間に合うんです。私だけでも、お願いします!!」

いつもは、どちらかといえば控えめなが強く言っている。同じ部屋にいたサヤとトモヤも顔を見合わせてシュウの言葉を待つ。

「...まあ、何とかできるだろう。4月30日に何があるんだ?」

「私が日本の大阪にいたとき、とてもお世話になった、いつも助けてくれた人の試合があるんです。」

「試合?」

サヤが聞いてきた。

「日本一になったら曲を作ってあげるって約束しているんです。だから、絶対に見届けたいんです。」

「わかった。とりあえず、航空会社に電話してみないとな。」


「そういえば、今更だけど。は何でアメリカに来たんだい?大学とかじゃないのに単身でこんなところまで。」

サヤがに聞く。

「強くなれるって思ったんです。独りでここで生活できれば、きっと出来るようになるって思ってたんです。

日本に帰ることが決まった今、私が強くなったかはまだ分かりませんし、案外ずっと分からないままなのかなって思っています。結局、サヤさんやシュウさん、トモヤさんに色々お世話になっちゃいましたしね。」

「...そんなもんでしょ。独りで出来ることの限界なんてすぐだよ。でも、誰かと一緒ならもっと出来る。独りで何でもかんでも背負わないことね。は頑張りすぎ。少しくらい肩の力抜いてみなさい。あたしだって、にたくさん助けられているんだから。」

「サヤは肩の力抜きすぎだがな。」

「そうですね。」

「うるさい!」

は、何が出来るようになりたかったんだ?」

トモヤが聞いてきた。

「...『きらきら星』吹けるようになりたかったの。」

「そう。じゃあ、今は吹けるのか?」

「分かんない...吹いてないから。」

「ま、焦ることないわよ。まだまだ若いんだし。」

「理由、聞かないんですか?」

「言いたい?言いたくなったときでいいよ。の腕でそれが出来ないってことは、きっと何かあるんでしょ?」

「ありがとう、ございます。」



最後の仕事が終わって、急いで飛行機に乗る。4人分の航空券は手に入った。

試合のチケットはある人に頼んでおり、家に届くようになっている。


日本に帰って、荷物をの家に置いて大阪府立体育館へ向かう。


ロッキーコールが会場に響く。

(凄い...。こんなにたくさんの人が応援してる。)

試合は判定となったが、千堂の勝利が宣言される。

腰にチャンピオンベルトを巻いた千堂は、いつか見たときのように拳を突き上げて歓声に応えていた。

「...馬鹿だな、私。」

千堂が自分に気付くはずがないのにそれでも少し期待していたは小さく呟いていた。

「あれが、の彼氏か...」

「やんちゃ坊主みたいでカワイイじゃない?」

「なるほど...。」

3人は口々に感想を述べていた。


帰りながら

「ところで、アレにはさっきの彼も招待するの?」

とサヤが聞いてきた。

「一応。来るかどうかは分かりませんけど。」

はそう答えた。



試合の翌日、千堂は病院で精密検査を受けた報告のためジムへ向かう。

ジムの会長に報告したあとジムを出ようとしたところで柳岡に呼び止められた。

「千堂。お前一週間後、暇しとるか?」

「何やの、柳岡はん。まあ、暇やけど?」

「なら、ジャズ聞きに行かんか?新しいジャズバーが出来るんや。昼間は喫茶店らしいんやけどな。そこの開店イベントみたいなんがあるんや。どうや?」

「ジャズ..か。」

が日本にいたときは彼女が自分のCDをダビングしてくれていたので、それなりにジャズとかそういうものも聴いてたいた。

しかし、がアメリカに行ってから音楽への興味を失くしていた。

特に、彼女を思い出すジャズからは離れていた。

「まあ、ええわ。久し振りに聞くのもええやろ。」

「お前、一応スーツは持っとるな。小さいところやけど、それなりのカッコした方がええで。特にお前はな。」

柳岡の言い様が気になったが、そんな所に行った事のない自分よりは詳しいのだろうと思って従うことにした。



柳岡に言われたとおりスーツを着て共にその店へ向かった。

身内だけで祝うと言うようなことを店長が言っているのを聞いて、

「なあ、柳岡はん。ここ柳岡はんの知り合いが関係しとるん?」

と千堂が聞くと、

「まあ、知り合いやな。ついでにお前もや。」

何のことか分からないが千堂は「さよけ」と適当に答えるだけだった。


演奏者が紹介されて名前を呼ばれた彼らが出てきた。

それを見た千堂は唖然とする。

自分の目に映る彼女はあのだ。昔と変わらない、いや、昔よりもずっと綺麗になったがいる。

彼女も自分に気付いて、優しく笑う。


何曲か演奏したあと、熊みたいなのが

『じゃあ、ここらでリクエストでも承りましょう。ああ、でも一週間前に帰国したばかりだから最近の邦楽は分かりませんけど。じゃあ、そうですね。大阪のヒーローのロッキーから、何かありますか?』

と言ってマイクを持って千堂に近づいてきた。

『それやったら、。『きらきら星』や。』

千堂に指名されたはしっかりと頷いて徐に構える。

いつかのようにゆっくりと演奏が始まった。

アレンジも何も出来ない、ただ、小学校の教科書の楽譜に書いてあるような音のみで、リズムも少しずれたりした。

でも、

『ありがとう、。最後までちゃんと聞かせてもらったわ。の『きらきら星』を。』

最後まで演奏することが出来た。



イベントが終了して控え室になっている部屋にいると、

!」

突然ドアが開いて千堂が入ってきた。

「いつ帰って来たんや。何で連絡してこんかったんや?がどこにおるかワイは全然知らんかったんやで?」

「千堂、さん潰れるわ。あと、ノックぐらいせぇ。」

力いっぱいを抱きしめながら言う千堂に一緒に来た柳岡は呆れながら声を掛けた。

「ああ、すまんかった。大丈夫か、。」

千堂は慌てて腕を緩める。

けほっとむせながら

「大丈夫。そうそう、チャンピオンおめでとう。曲はもう出来たよ。」

「おおきに。けど、何で知っとるん?」

「見に行かせてもらったよ、ロッキー君。」

部屋で暖かくたちを見守っていたサヤが声を掛けてくる。

「見に来たって。どうやって分かったんや、アメリカやろ?チケットかて早うに売り切れて当日券なんて殆どなかったはずやで?...もしかして、柳岡はん?!」

今日ここに自分を連れてきた柳岡を振り返って聞く。

「中々、ええ勘しとるやないか。お前の試合は全部さんに教えといたんや。お前が日本一になったら曲作る約束したから知りたいってあの手紙預かるときに言われとったからな。」

全く悪びれず柳岡は肯定した。


千堂は本日二度目、唖然とした。


「な、何やのそれ!!柳岡はんずるいわ。自分だけと連絡取っとったなんて。も酷いで。ワイには連絡先教えとらんかったのに柳岡はんには教えとるって。」

千堂に迫られてはたじろいだ。

「え、でも。私、凄く身勝手なことをしたんだし、もう千堂君に簡単に連絡取っちゃいけないって思ったから。」

「ああ!今『千堂君』言うた!!違うやろ?」

「...私、まだ『武士』って呼んでいいの?」

「当たり前や。言ったやろ?『誰よりも大切や。絶対に誰にも渡さんからな。』って。そりゃ、がワイに一言もなしにおらんようになったんは正直ショックやったけど、ちゃんと帰ってきた。ちゃんと、『きらきら星』聞かせてくれた。それで、もぉええわ。それとも、の方に不都合があるんか?」

「ない。ないよ、武士。」

涙を流しながらが千堂に抱きついた。千堂もそれに応えてを抱きしめる。

「武士、ごめんね。」

「...もっと的確な日本語があるはずやで?」

「―――ありがとう、武士。」

コホンと咳払いが聞こえた。

「あー、もういいかな?あたしも居ること忘れてるね、。ロッキー君もう少し待ってて。これから反省会があるから。」

サヤに引きずられていくはもう一度千堂を振り返った。

それに気付いた千堂はヒラヒラと片手を上げて微笑んだ。


反省会が済んでは急いでその部屋をあとにする。

その背中を見送りながら

「ま、こればっかりは仕方ないな、トモヤ。」

とシュウがトモヤの肩を叩く。

「分かってますよ。向こうでボクシングを見に行った時、何となく気付きましたから。」

「しかし、ウチのお姫様があんなに嬉しそうに笑ったのも、泣いたのも見るのは初めてだったね。なんだか妬けるじゃない?」



が控え室に着くと千堂しか居なかった。

「あれ?柳岡さんは?」

「気ぃ利かしてくれたんと違うか?もぉ帰れるんか?」

「うん。帰ろ?」

手を繋いで歩いて帰る。

「それやったら、はこのまま大阪に居るんやな?」

「そだよ。」

「ずぅっと一緒に居れるんやな?」

「そのはずだよ。」

「今度何かの用事で居らんようになるときは絶対連絡先言うんやで?あと、帰って来るのに挨拶に『さよなら』は無いやろ?」

「はい...」

。」

「何?」

話しながら歩いていた千堂が足を止めた。もそれに合わせて足を止める。

「ワイは、が好きや。これも、誰にも負けんことや。覚えとき、ワイはが世界で一番好きや。」

「ありがとう。私も武士が誰よりも好きだよ。」

の言葉に千堂は優しく微笑む。



キラキラと星の瞬く夜空の下で二つの影が重なった。




2話分の長さの最終話でした。
途中で切り辛かったのでそのままで。
最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました(深々)

桜風
05.2.17


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