| 高校に上がって夏休みが終わったそんな半端な時期に転校生がクラスにやってきた。 いつもどおりに周囲に興味がない宮田は担任に紹介されて緊張しているのか少し引きつったような笑顔を浮かべている同じ年の少女を一瞥してそのまま頬杖をついて窓の外を眺めた。 「です。よろしくお願いします」 彼女の自己紹介が何となく耳に入ってきた。 ふーん、と思ったと同時にその名前は忘れていく。 別に、知らなくてもあまり困らないだろうから。 ガタガタと隣で音がしたかと思って見てみると、さっき黒板の前で自己紹介していた彼女が座っていて、目が合うとニコリと微笑む。笑うとぱっと明るい顔になるんだなと何となく思った。 「よろしく」 彼女の言葉に宮田は小さく会釈をした。 隣になったからと言っても別に何か親交を温めるなんてことはない。 何の会話もなく淡々と授業を聞いたり、時には目を開けて寝たりしていた。 それに対しては何も言わないし、彼女は宮田と会話を進んでしようとはしなかった。 放課後になってそのままは慌てて教室を出て行った。 彼女と放課後遊ぼうなどと画策していた様子のクラスメイトは首をかしげ、「付き合い悪そうね」と勝手なことを囁きあっていた。 あのダッシュは用事があるに違いないと普通は思うだろう... 素晴らしいスタートダッシュに不覚にも唖然としてしまった宮田は何となくそんな事を思いながら自分も帰宅の途につくことにした。 いつものメンバーでロードをしていると鷹村が足を止めた。 「ん?何だ、お前」 「ヒッ!」 短く悲鳴を上げた少女は体を仰け反らしてそのまま後ろに倒れそうになる。 はしッと手を伸ばして腕を掴んだのは宮田だった。 「鷹村さん、何脅かしてんだよ。大丈夫か?えー..とさん」 呆れたように宮田が言う。 「な、俺様は..!」 土手の影からこっそりとこちらの様子を伺っていた少女が居たから声を掛けただけだ。 そしたら、少女が思った以上に驚いてこうして土手から転げ落ちそうになっていただけなのだ。 「宮田、知り合いか?」 「まあ...クラスメイトってやつですか」 本日なりたてのホヤホヤだが。 宮田がチラリとを見るとほけーと鷹村を見ている。 ああ、大丈夫そうだなと思っていると「なあ、あれ」と言いながら青木が土手の下を指差す。 宮田もそれにつられて土手の下を見るとスーパーの買い物袋だろうか、それが哀れに転がっている。 中身も多少散乱していた。 あ、豆腐。 「ああーーー!!たまごーーーー!!」 叫びながら彼女は土手を下りていく。 彼らは呆然とその姿を見送った。 どうやらスーパーで卵を購入したようだ。そして、そのスーパーの袋は鷹村に驚いたの手を離れて見事にこの土手を滑っていったらしい。 彼女の後姿を指差して笑う鷹村を尻目に「はあ、」と溜息を吐きながら宮田もその後を追った。 クラスメイトだ、仕方ない。 「何やってるんだよ」 呆れた口調で宮田が手を貸す。 「ああ、ありがとう。えーと、宮田君」 は宮田を指差してそう言った。 「ほら、これも」 そう言っての後方から手が伸びてきて、その手には林檎があった。 振り返ったは「ありがとうございます」と礼を言ってそれを受け取る。 この時期に転校してきたのだから、きっと家族と一緒なのだろう。 今日、教室からダッシュで出て行ったのはバイトの面接があるからとかそういうことを想像していたが、案外そうではないようだ。 恥ずかしそうに買い物袋に散乱したものをしまっていき、何とか立ち上がる。 ちなみに、卵は10個中4個割れていた。 意外と無事だったなと宮田は思ったし、も何だか安心したように息を吐いていた。 「あの、本当にありがとうございました」 そう言ってまずは林檎を拾ってくれてその後も色々と手を貸してくれた木村と青木に頭を下げて、「宮田君も」と言って頭を下げる。 徐には腕時計で時間を確認すると「あーーー!」とまた叫ぶ。 賑やかな子だな、と思いながら宮田が見ていると「ごめん、ホントありがとう」と言って駆け出す。 土手の上に上がったら上がったで「お騒がせしました」と鷹村に声を掛けてそのまま走って行った。 せっかく無事だった卵が6個もあったのに、あれだけ駆けながら袋を揺らしていれば残りの卵も全滅するのではなかろうか。 そんな事を思いながら、一生懸命走っている割にあまり遠ざかっていないの背中を呆然と見送った。 |
桜風
08.9.6
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