ピーカン 2





が家の前に着いたと同時に彼がやってきた。

「おねーちゃん!ただいま!!」

「お帰り、コータ」

真新しいランドセルを背負った少年がの姿を見つけて駆けてくる。

「初めての学校、どうだった?」

はそう声を掛けながら少し古いアパートの一室に鍵を挿す。

現在、は家族とそこに住んでいる。

「うん」と言いながらションボリする弟の頭を撫でて「ご飯作るから待っててね」と声を掛けた。

途端に嬉しそうな顔をした弟はを見上げて「お腹すいた」と主張する。

スーパーの袋の中身を見るのが少し怖いな、と思いながらもはそれを台所に置いた。



今日、もの凄く半端な時期に転入して、そして、クラスメイトとの交流を無視して帰宅した。

きっと人間関係に溝が出来ただろうなと思いながらも仕方ないと諦める。

弟が学校から帰る時間までには家に居てあげたいと思っていたから。

自分が鍵を挿してドアを開けるのは少し寂しい。

家に帰って「ただいま」と言っても「おかえり」という声が返ってこないのだから。

小学1年生の弟にはそれは寂しすぎるだろう。

そう思ってバイトもしないし、この時間には家に居たいと思ったのだ。

そういえば、1人だけ親交を温めたクラスメイトがいたことを思い出す。

宮田..なんだっけ?

明日聞こう。

彼は何だってあんなゴツそうな人と一緒に走っていたのだろうか。

今日、隣の席になったクラスメイトを見かけたので声を掛けてみようかと勇気を振り絞ったがそのすぐ傍に熊みたいにガタイのいい人が居た。

しかも何だか生真面目に走っている。

何だろう?どういった団体だろう??

そんなことを思いながら土手に身を潜めてその様子を伺っていると何故か見つかり、驚いてそのまま卵入りのスーパーの袋を土手下に滑らせるという失態を演じてしまったのだ。

転校初日でクラスメイトに「ドジっ子」のレッテルを貼られてしまっただろうか。

まあ、あながち否定出来ないから悩まないこととしようと心に決めた。

駆けながらスーパーの袋を持っていたのでそれは当然に走る過程で足に当たり、結局無事だった卵もひびが入ったりして正直今日使うしかないという状況に陥った。


どうしよう...


姉に言われたとおり手洗いうがい、そして着替えを済ませた弟が台所にやってくる。

「姉ちゃん、今日のご飯何?」

「んー、悩み中。卵を使ったので何がいい?」

弟に相談すると弟も真剣に悩み始める。

「あ!ボク親子丼が食べたい!」

挙手しながら弟が主張し、「おっけー」とは右手の親指を立ててさらにウィンクもつける。

「ボクも手伝う」という弟に「ありがとう」と声を掛けて彼にも出来そうな仕事を任せることにした。

結局、明日も卵を購入しなくてはならないという状況になり、は仕方ないと溜息を吐く。

明日は、きっとあんな団体を見ても驚かない。

心に決めて布団に入る。



翌朝、別室を覗くと親が寝ていた。

食卓の上を見ると昨日作り置いていた親子丼はなくなっている。

日付が変わるまでは起きていたが、結局親は帰ってこなかった。忙しいと聞いていたが、こんなものなのかなと釈然としないが納得した。

出社時間は自分たちの登校時間よりも遅いため、自分が家を出るときに起こせばいいと思ってこのまま静かに寝かせようと思う。

目をこすりながら起きてきた弟に向けて人差し指を口に当てて静かにするように促した。

「寝てるの。昨日遅かったみたいだからね?」

「わかった。しぃー、だね?」

小声で話す弟の頭を撫でて朝食の仕度を始めた。

小学校は給食という制度があり、とても助かる。自分の昼食は学食か、それともコンビニで購入していくか。

行くまでに考えたら良い事だ。


学校に行く前に親を起こして家を出る。

眠たそうな顔をした親が部屋から出てきて子供たちが家を出て行くのを見送る。

「今日の夕飯は何が良い?」

行きたくないのかな、と思いながらも沈んだ表情の弟に努めて明るい声でそう聞いた。

「んー、と。えーと」

弟は一生懸命に悩んで、

「きんぴらごぼう!」

と満面の笑みで返してきた。

渋いな...

そんな事を思いながら昨日と同じく右手の親指を立てて「おっけー」と快諾してそれぞれが学校に向かう。

2人が同時に溜息を吐いたのはお互い知る由もない。









桜風
08.9.13


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